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犬神落とし、混沌の旅①


いきなり弾丸旅行

前後不覚からの出発

 正直、徳島行が決まった経緯が確定した理由は全く記憶がない。所どころ極まった行動があったのと手首が引きつる程のフェザーされていることしか記憶になかった。バタリと倒れて眠りこけたその日の晩に手首がファイヤーして翌朝大量の変色したティッシュと家人に送りつけた
「晩御飯は食べられない。無理」
 というリアルタイム画像付きショートメール。思い出した。晩御飯を食べずに夜の薬を日本酒で呑んで寝た。駄目だ駄目だ駄目だ、おかしい生活が続いている。
 ここ数週間、入退院してから腕がファイヤーすることが増えて素肌が見えないし、些細な言葉に固執して家人ともFFとも喧嘩するし、見なくてもいい悪い場所を見に行って心をへし折って帰って来るし、また入院するかー、などと思っていた。職も失ってもう無敵の人だ。京王線のジョーカーの判決が出て彼が出所しても50何代、私が仮に……■が出てもそれを犬神のTシャツの口元にピペットに差し上げ、猫じゃらしのネズミに差し上げ、私はよくわからないことをしていた。狂っている。

「楽しそうにお砂場で遊んでいる子たちがいたらお山を壊したくなるよね」

 なんて別の友達の言葉を思い出す。でもトルエン吸ってるチンピラがたむろしてるならもう逃げた方がマシだ。私にできることはひたすら■■を試行錯誤するだけだ。またどうせ「メンヘラが命を盾にwww」とか言われるんだろうが、そこまで極まった人間の精神は健全な群れの皆様にはわからないんだろう。ああ嫌になった。私はベッドの上で4んでいた。
 そんな時、家人が部屋に踏み込んできて開口一番言い放った。

「お祓いに行こう」

「トモス、明日お祓いに行こう。前から行きたがってたでしょ。自分がその妖怪に憑かれてるんじゃないか、どうにかしたいって言ってたでしょ。その神社しか観てくれないんでしょ。だから、もう行こう。お盆になる前に行こう」
 私はいずれ行こう、という話だけしていた。荷物も何となくまとめてはいた。しかし、まさか明日になるとは。確かに、異常な被害妄想も異常な執着も、異常な嫉妬心もどれももう私は制御できない。昔から、体がじりじりと灼熱の炎で炙られるような嫉妬心で背中を押され、「その人が言われたら一番痛いこと」を言ってしまう。「あなたのことを思っているのよ」と言い聞かせながら相手を追い詰めてしまう。「性根が腐ってる」の大合唱が返ってきそうだが、色々言いたいことはある。
 これで有能なバリキャリ美人なら「ただのサイコパスパワハラ上司」で済むし、美人専業主婦なら「マウント取りヒステリック妻」だが、残念ながら「生まれつき脳に欠陥があるデブスメンヘラ」だそうなのでもうお先真っ暗だ。
 「性根が腐る」とはよく言ったものだ。根っこが腐るのは雨が降りしきるからだ。そんな陰鬱な、罵詈雑言と言う雨を一身に受け続けたらそりゃ腐る、よく「『ブスは性格もブス』って言われるけどいじめとかにあってたらそりゃー性格も捻くれるよね」という卵が先か鶏が先か論争になるのである。だからここはもうわからない。障害が先か、いじめが先か、家庭環境が先か、もうなんもわからん。自分が善行を働いたと思ってる人でも傍から見たら「なにこれ暴言厨じゃん」だったり、ということもあったり
 閑話休題。あれよあれよと言う間に私は荷物をあらかじめまとめ、服も山登り用に直し、家人がルートをまとめ、明朝の出発に備えた。私が祓いたいと希う妖怪は今まで何度も小説のネタにしてきたし、これからもネタにするつもりの「犬神」であった。

 弘法大師の伝説を発祥とし、その後は主に高知で認知が盛んである。研究者の中にはかの有名な精神医学者森田正馬(森田療法の考案者)もいる。私が小の妖怪を知ったのがいつなのかは記憶にない。ただ、取り憑かれた家の者の情緒が不安定になり、大食になり、凶暴になり、大声でわめき吠え、ひっきりなしに体を揺する(今でいう貧乏ゆすり、常同行動と思われる)という特徴が自分に似ていたのだ。
 そして、他の妖怪が出てくる作品に、犬神は何故か全く出てこなかった。最近妖怪ウォッチやぬらりひょんの孫で出てき始めたところだ。それは恐らく「犬神統」という家単位の差別、いわば部落差別的なタブーがあったからかもしれないが、私も知らず知らずいじめられていた自分と「犬神」を重ねていたのかもしれない。自傷癖として、自分を噛む癖もついていたのだし(腕■■よりも傷が残らないので)。
 犬神は嫉妬の妖怪である。何度、あちこちに飛ばしたことか。何度、祈り血をシャツの犬神図に捧げたことか。そんなことをしても前には何も進まないし、人は離れるだけなのに。私はただ、流れる血が無駄になる気がして、とにかく犬神に縋りたく、嫉妬と復讐と■■で楽になりたいという一心で血を物言わぬその口に擦りつけ続けていた。

徳島への旅路

特急に乗っているうちが華

 とにかく平日とはいえ夏休みが始まっており、何が起きるかわからない。特急指定席でも早めに出られるようにと前日から服を着て寝ていた。幸い、早朝からの快晴でこれはいい景色が見られるだろう、と思う。しかしやんぬるかな、特急発車までの時間がとにかく長く、そして人は狭いJR構内にどんどん増えていく。我が市のJR駅は利用者数や市民数に比べて圧倒的に古く、小さい。最近セブンイレブンが綺麗になったのが救いだ。見るからにUSJに行く大学生たちが大量に流入し始め、自分たちは未だ涼しい駅構内に入り特急を待った。
 特急は子供向けキャラクター仕様である。お祓いに行くのに……と何やら心がしょぼくれそうになる。まあ目の前ではしゃいでいる子供たちは関係ないのだろう。幸い大騒ぎする子供たちはいなかった。みんなマナーがいい。おじさんもおばさんも子供もみんなマナーがいい。
 窓の外を見ると、愛媛のものか香川のものかわからない海が広がっていた。早朝の海はきれいだ。日の出じゃなくても、深い青色で、満ち潮で落ち着く。涼しい中で夏が感じられるのが素晴らしい。

何もない海。電線が少し邪魔


陸路を走るとしたら手前の道を走るのだろう

 世の果てでは空と海が交じる、と『アゲハ蝶』の歌詞にあったが、電線がぶち壊しにしている。しかし田舎の海という感じがしてまたそれもよし。車で走ると電線がなくなるのだろう。
 こんな調子で徐々に市街地に入って行って、香川の駅にて乗り換え。チケットの購入が難しく、家人とあーでもないこーでもないと喋り、ちゃんと買い、セブンイレブンでアイスを馬鹿のように買ってほぼ無人のホームで食べる。ほぼ無人のホームからは高知との県境の山が見えた。
 そのうち行きたいな、高知。などと考えながら、じりじり焼き豚になりながらうろうろと構内を歩く。次も特急だ。それを降りれば徳島、さらにそこから乗り継ぎ。しかし、全く涼める場所がない。アイスはすぐになくなった。娯楽施設は全く併設されず。特急が入ってくると、私と家人はすぐに飛び込んだ。

「狸日本一」とかいう無人駅

 特急の乗り換えを乗り損ねそうになったり、そもそも電車の昇降が自分で押すボタンだったりかなりのカルチャーショックがあった。鈍行だったが、どんどん山を登っていく。目標駅の次の「大歩危(おおぼけ)」という名前から、足元がかなり恐ろしくなってくる。断崖絶壁の旅とかは辞めてくれマジで。と思っていたら、普通にお手製感あふれる無人駅に降ろされた。


日本一とはデカく出たな


一見すると活気ありそうだけど誰もいない……


 これには伊予の人間として一言言いたいし、金長神社に奉納した身としても色々言いたいことがある。「伊予灘ものがたり」の反対方向バージョンがあった頃は確か「妖怪駅」でおもてなししていた気がしたが、いつの間にか「日本一の狸話の里」になっていた。デカく来たな、と思う。
 そもそも四国から狐がいなくなって狸が溢れた理由は伊予松山の河野氏が奥方に化けた狐を見破り退治しようとしたところ自ら狐たちが出て行ったという伝承に基づくという「国が編纂した資料」による「伊豫狐不在由来」というものがある
ので発祥は伊予なのでは?と言いたくなったが言う先が誰もいないので黙っておく。本当に誰もいなかったし
 写真は乗せていないが、「こんな狸がいるよ」という案内板のようなものがあった。そこにあった「汽車狸」「首■り狸」は愛媛の「毘沙門狸」と「■■の真似をする狸」と丸被りでは……これは取り合いになるのでは……と少し不安になるなどした。文化の取り合いと言うのはこういうものか。
 というのはさておき、駅構内に掲載されているタクシーの配車番号にかけても別の番号を案内されるのはどうしたことか……どこの番号を見てもその間違った番号が書いてあるのですが……直してほしいです、熱中症との戦いなので……


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