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侵入してきた泥棒と仲良くなった話

――たとえ相手が犯罪者であろうと相手の境遇に立ってみようと努める。それだけのことで僕らはつながることができる。一生ものの出逢いをつくることができるんですよね。


人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「自分を正当化する前に相手を理解しようとする」というテーマで話していこうと思います。


📚7本指のピアニスト

昨日、TikTokを眺めていたら、めちゃくちゃ面白いエピソードと出逢いました。ラジオの切り抜きで、西川悟平さんというピアニストのエピソードです。

西川さんは「7本指のピアニスト」の異名を持っています。2004年、ジストニアを患い、両腕が動かなくなってしまいましたが、リハビリの結果7本は動くことに。最近では、2021年に開催された東京パラリンピックの閉会式でピアノを演奏されました。

ピアニストにとって命ともいうべき指が動かなくなり、一時は酷く落ち込んだらしいのですが、それもひとつの「普通」と捉え直し、活動を再開したのです。この復活の物語だけでもたまらないのですが、今回紹介するエピソードはまた別。

西川さんがニューヨークに住んでいた頃の出来事、家に侵入してきた泥棒と仲良くなったという話です。嘘のような本当の、心温まるエピソードです。是非、以下の音楽と共に、読んでみてください。




📚泥棒と仲良くなった話

西川さんがニューヨークマンハッタンのぼろアパートに住んでいたらしいんですが、―17度の震えるようなとある日、2人組の泥棒が家に侵入してきました。というのも、平和ボケして鍵をかけるのを忘れてしまっていたらしいのです。

侵入してきた泥棒は透明な液体の入った注射器で西川さんを脅し、部屋の中を物色し始めました。

突然のことで戦慄した西川さんでしたが、次第に恐怖心は好奇心へと変わったのです。彼等のやっていることは犯罪だけれども、どうしてそんなことをしなければいけないのか、悪事に手を染めなければいけなかったのか、気になったのです。

そこで西川さんは両手を挙げながら、恐る恐る泥棒に訊いてみました。

「どんな幼少時代を送ったの?」と。

すると泥棒は声を荒げ、「おまえにあの痛みが分かるのか!」と言いました。訊くと、父親から虐待をされていた過去を話しました。生みの親である母親はアルコール中毒者で守ることをしません。学校も行けず、地獄のような人生を歩んできたというのです。

それを聞いて、西川さんは涙しました。そして「ここにあるものなんでも取っていっていい」と伝えたのです。泥棒たちは大型テレビに目をつけ、奪い去ろうとしました。作業をしている泥棒たちの背中に哀愁を感じた西川さんは、「ハグをしてもいいですか?」と訊いたそうです。

もちろん断られたそうですが、泥棒はあることに気付きます。西川さんが日本人であることに、です。

「おまえは日本人か?」と訊かれ、西川さんは頷きました。すると、泥棒は「日本人は他人に対して優しい文化があるから好きだ」という言葉を放ったのです。

日本人の国民性を褒められた西川さんは何かもてなそうと思い、「日本から持ってきた緑茶があるんだけど、飲まないかい?」と訊ねました。すると泥棒は「飲む」と言い、西川さんを解法しました。緑茶と和菓子を振る舞うという手厚いおもてなしをしたことにより、その後、泥棒と語り合うことになったのです。なんと、8時間も。

家に侵入してきた泥棒たちと意気投合するというドラマみたいな話ですよね。しかし、まだ驚くには早いです。このエピソードには続きがあります。


📚相手を理解しようとする姿勢

泥棒ふたりと7本指のピアニストたちの不思議な談義は夜な夜な続きました。気が付けば朝の5時。既に打ち解け合っています。

その頃、泥棒が部屋に貼ってあったポスターを見つけました。それはカーネギーホールの小ホールでのコンサートについてのものでした。少し前に、西川さんが参加したコンサートでした。

そこで泥棒は西川さんがピアニストであることを知り、「何か弾いてくれないか」と頼みました。実は、泥棒のひとりがその日誕生日だったのです。というわけで、西川さんはバースデーソングを弾きました。

演奏後、泥棒は涙しました。

「自分のためにピアノを弾いてくれたのは今が初めてだった」とのこと。泥棒の心を動かした西川さんは、その後ピアノリサイタルが1時間続いたそうです。


別れ際、西川さんと泥棒は約束を交わしました。

ひとつは、「自分は警察に絶対に言わないから、君たちはこれからちゃんと仕事に就く」ということ。学校を出ていなくても清掃など立派な仕事はたくさんあるから、頑張ってほしいと伝えたのです。

もうひとつは、「僕はいつかカーネギーホールの大ホールで演奏することがあるかもしれない。そのときはVIPとして招待する」ということ。かっこよすぎませんか! ちゃんと泥棒たちと連絡先を交換したらしいんです。


で、一年後、カーネギーホールの大ホールにゲストとして参加することが決まったんですが、それを知った泥棒から連絡が来たそう。テレビのドキュメンタリー番組を視聴してメールしてきたのです。

西川さんは戸惑いましたが、コンサートの運営者の後押しもあり、泥棒ふたりを招待することを決めました。女王とか大統領とかが座る貴賓室に、スーツを着た泥棒ふたりがやってきたのです。


公演後、長文のメールで感想が送られてきたそうです。本当に良かったと、感激したという言葉が並んでいました。

また、その半年後くらいにメールが届きました。何枚かの写真が添付されています。そこには車と泥棒が映っていました。なんと、あれ以来、ちゃんと清掃業の仕事を続けていた泥棒は少しずつ貯金をして、中古車ではありますが車を買ったそうです。


なんという心温まるエピソードでしょう。どんな創作でも描けないような物語ですよね。この体験を受け、西川さんは「自分を正当化するより前に相手を理解しようとすることが大切である」という教訓を得たといいます。

たとえ相手が犯罪者であろうと相手の境遇に立ってみようと努める。それだけのことで僕らはつながることができる。一生ものの出逢いをつくることができるんですよね。

きっとこのエピソードに心動かされた人は僕だけではないはずです。疑うよりも前に、否定するよりも前に、相手のことを理解しようと、話し合おうという姿勢を持つ。そんな小さな意識を重ねることで、世界に平和を連れてくることができるかもしれません。

最後まで読んで下さりありがとうございました。

20230224 横山黎



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