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人生の謎はいつか解かれる。

――謎をつくっているのはその事象に目を向けた語り手で、事実は間違いなくあるんですよね。真相は藪の中といえど、藪の中にはちゃんとあるんですよ。


人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「人生の謎はいつか解かれる」というテーマで話していこうと思います。


📚この世に解かれない謎なんてない


今日、新年早々大学の授業があり、森鴎外の『興津弥五右衛門の遺書』という作品の研究発表がありました。乃木希典の殉死を受け書かれた歴史小説で、短い物語ではありますが探りがいのある深い背景があり、とても貴重な研究体験でした。

この物語って、文語で書かれているから、僕の知識不足でもあるけど初見でちゃんと理解できないんですよ。「某」「候」の単語が乱立するし、登場人物の名前はみんな似ているし、そしてみんな死んじゃうし(笑)
#殉死小説

ただ、ちゃんと時間をかけて、いろんな文献や論文を調べていくと、「あ、それってそういうことなのね」という謎の解消の瞬間に立ち会えます。

この体験を通して、僕が改めて思ったことがあります。それは、この世に解かれない謎なんてないということ。


📚藪の中だけど存在はする


僕らは時に「謎」に出逢います。なんかよく分からない、理由が分からない、動機が不明……様々な謎が世の中には溢れているのです。でも、謎というのは、ただの事実のひとつであって、そこに原理はあるし、本人は知っているんですよね。


冒頭で研究発表の話をしたから、それを例に挙げますね。去年、僕は芥川龍之介の『藪の中』を研究したんです。男女関係のもつれから生じたひとつの殺人事件の話です。しかし、7人の登場人物の物語すべてを照らし合わせると、事件の真相が分からなくなってしまうんです。今でも、真実は藪の中、といいますが、あのもとになったのはこの作品です。

ミステリー小説ではないから、犯人が誰なのか、その議論をするのは野暮。『藪の中』は精神的欲求にフォーカスした近代小説なのです。語り手には心があります。その心を通して語られる物語は、少なからず事実とはかけ離れたところにあって、語り手の都合の良い解釈や脚色が施されていると考えられるのです。以前、noteの記事にも書きましたので、是非、のぞいてみてください。


『藪の中』でいえば、「夫が死んだ」という事実は確かにありますが、語り手次第で、妻が殺した真相になるし、夫が殺した真相になるし、そもそも他殺ではなく自殺であるという真相にもなる。

謎をつくっているのはその事象に目を向けた語り手で、事実は間違いなくあるんですよね。真相は藪の中といえど、藪の中にはちゃんとあるんですよ。藪のせいで分からなくなっているけど、ただひとつの事実がそこにはあるのです。

つまり、世に謎なんてひとつもなくて、それに向かう人の心が作り上げた仮想のものなんですよね。


📚人生の謎はいつか解かれる


僕らの人生にもたくさんの謎があって、時に分からない、理解できないせいで、思い悩むことがあると思うんです。僕も何度も頭を抱えました。考え続けても答えが出る問題ばかりではなくて、そのせいでまた苦しんで……そんな負のスパイラルに襲われるんです。

ただ、この世に解けない謎はありません。時間が経てば、視点が変われば、知識が増えれば、ちゃんと体験すれば、ただのひとつの事実であると気付けるんです。


以前、男子の友達がクリスマスに気になる子を家に誘ってまったり一緒に過ごした後、告白をしたらふられたというエピソードを聞かされて。そのとき彼は「いや、クリスマスだし、誘って来てくれるってことはそういうことじゃん、その気がないなら断ってよ」と嘆いていました。

そのとき僕はどうして告白を断ったのか、どうしてクリスマスに来てくれたのか、どういう心境だったのか、確かめたくなって、後日、本人に連絡してみたんです。

そしたら、答えは簡単で、「断りにくい性格だから」。昔から押しに弱いタイプで、押されたら首を横に振れない人だったそうです。

ほんの些細な日常の謎解きをしたわけですが、同じような経験はいくらでもあります。今回の例の場合、誘った彼も、誘われた彼女も、今も仲が良いから問題はありませんが、すれ違いのせいで関係を絶つことになったり、誰かが傷ついたりするかもしれないじゃないですか。

だから、不安要素のある謎は謎のままにしておかない方がいいので、ちゃんと事実を整理した方が良い。確かめる、そんな簡単なことで人間関係の不和を解消することができます。世界の謎をひとつ解くことができるんです。


そういえば、授業が終わった後にもひとつの謎解きがありました。それについては明日話しますね。どうせ長くなっちゃうんで。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20220106 横山黎



今日の1冊

『あなたの死体を買い取らせてください』

TSUTAYAで表題作だけ立ち読みました。『嫁入り3000文字』のときも思ったけど、この方のつくる超短編は本当に長さを超える感動があります。物々しいタイトルですが、最後には心温まります。ぐっとくる物語をさくっと読みたい方におすすめです。


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