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To Leslie(2022)/マイケル・モリス監督

またもや素晴らしい主演力に心打たれる作品を観てしまった。

宝くじに当たり大金を手にしたシングルマザーが、酒に溺れ、息子も手放し、依存症と共に不安定な生活を送るが、それでも差し出された神の手をもう一度掴んでいこう、とする物語。

マイケル・モリス監督初長編作品であり、また、脚本を担当したライアン・ビナコからすると実話を基にした"母親へのラブレター"としての作品でもあるという。

とにかく、主演のアンドレア・ライズボローの演技に目が離せなくなってしまう。

どうしようもないアルコール依存で、一日と断酒の約束は守られず、挙句息子や息子の同僚のお金にも手をつけてしまい断絶されてしまう母親なのだが、神様はそれでも放っておかない。

シングルマザーや、アルコール依存症などは数々の作品で描かれてきた要素ではあるが、レスリーは、わたしの感覚としては何故か悲劇的ではないし、むしろ哲学すら感じてしまう。

もちろん幾度となく語られる被害者意識ゆえの言葉には辟易してしまうし、現実的に住む場所や人間関係も失っていくのだが、それでも彼女の中では道筋も理論もしっかりと通っているのだ、と思わされてしまう。

大体こういった物語だと前情報に聞いていて、その時は母として女として感情移入するのか、それとも「彼女よりマシ」とどこかで安堵してしまうのか、つまり、自分のそういう嫌な部分や子どもに持つ無意識の罪悪感が炙り出されてしまうのか、などと考えていたのだが、鑑賞してみたら、そのどちらも違ったことに気づく。

端的にいうと、戦友の勇姿を見たような気持ちになった。

もちろん母親としては共感するし、友達としてはどうしちゃったのよと叱咤激励したくなるし、女としてはどうしようもない姿を見せても尚大切にされる様はちょっと羨ましくもあるし、何より、人生を覗き見た観客としては、ラストシーンを観て泣かないわけにいかないはいかなかった。

終わりよければ、とは言わないが、2時間観て思うことは、彼女は単に彼女なりの美学で、生きてただけなのかもしれない。

そして結局、自分の人生は、自分で回収していくしかないということ。
寄り添ってくれる人や環境と共に、それぞれがそれぞれの人生で芽吹いたものを摘み取ってゆく。

彼女にあたたかな手を差し伸べるマーク・マロン演じるスウィーニーも、レスリーの姿に自分の経験した過去が脳裏に浮かんだのだ。

過去がどうであれ、誰のせいにもできないし、隠れて生きることもできない。
じゃあ、堂々と出ていくしかないのだ。
そこにあなたがいてくれたら心強い、というわけ。

そうやってお互いが過去を乗り越え、肩を並べ未来へ歩み出す姿は古今東西、幾度となく描かれてきただろうけれど、やはり美しい。

「逃げ切れた夢」でも同じようなことを語ったけれど、惨めでも苦しくても悲しくても、そのままの自分で死ぬまで生きていかなきゃならないよね、とまた思わされてしまうのだった。


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