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第十話 ついに一号機が登場! ワイシャツのボタンが弾けそうなほどの爆乳

【前回までのあらすじ】

近所の若妻・理沙さん。未亡人の女性編集者・静子さん。彼女たちは、勇吉にとって「二号機」と「三号機」だったことが判明した。
「合宿から帰ったら、一号機にも会わせるからな」
勇吉はそういって、二泊三日の強化合宿に出かけた。

一方、ぼくは勇吉の弟・陽太に「寂しくて眠れない」といわれて、勇吉のいない夜、バラック小屋を訪れた。いつの間にか眠りに落ちると、隣に姉の千鶴さんが寝ていた。そして、寝ぼけている千鶴さんに股間を掴まれるというハプニングに見舞われて、あわてて帰ってきたのだった。




 ぼくは脱衣所の鏡の前で髪をセットしていた。上着も襟付きのシャツにして、下は黒のチノパンにした。ぼくなりにお洒落をしたつもりだ。思えば、理沙さんや静子さんの時はいきなり勇吉に連れて行かれたから、髪型も服装も適当だった。
 だけど今回は違う。
 一号機。どんな女性なのだろう。一号機というから、勇吉が初めてセックスをした女性なのだろうか。それとも勇吉のいう「すぐにヤレる女」の一人目ということか。
 まさか千鶴さんではないよな? 
 昨晩、裸電球の下で千鶴さんの隣で寝たこと、わざとではないと思うが股間の膨らみを握られたこと、帰り際にお礼を言われたこと。秘密めいていた一夜を思い出して、ぼくはまたあらぬ妄想が膨らんでしまう。
 早く一号機に会ってみたい。
 勇吉は何時頃に来るのか。そもそも今日、本当に来るのかも定かではなかったが、ぼくはいつでも出かけられるように朝から準備をしていた。
 だが、待ち人は一向に現れなかった。何度かバラック小屋を訪れようかと考えたが、もし勇吉もこっちに向かっていれば、行き違いになってしまう。結局、ぼくは悶々としながら、よく晴れた夏の一日をもったいなく過ごしていた。
 ヒグラシの鳴く夕暮れ時、ぼくは庭へ出た。自転車のタイヤに空気を入れておこうと思ったのだ。
 空気入れをピストンさせていると、足音が近づいてきた。やっときたか! 首を長くして待っていたけど、あまりはしゃぐのもみっともない。ぼくは平然を装って、「おお」と声をかけようとした。
「うそ!?」考えてもいなかった声が出た。
 庭先に現れたのは千鶴さんだった。
「あ。いた。よかった」
 彼女は藍色のワンピース姿だった。ボディラインがよく浮き出たでワンピースで、ノースリーブの肩から白いバッグをかけていた。
「千鶴さ……ん」
 ぼくが息を飲んだのはいうまでもない。勇吉や陽太も一緒なのかと思ったが、彼女以外現れなかった。
 千鶴さんはお化粧もしていた。南国系の愛らしい顔立ちがいつもより色っぽく見えた。
「あれ? どこかに出かけるところだったの?」
 千鶴さんはぼくの自転車を見ながら、ゆっくりと近づいてきた。真正面までやってきて、やや上目遣いでぼくを見上げてきた。ふんわりと漂う甘い香りとともに、昨晩、握られたときの感触もよみがえる。
 そして、一号機という言葉も……。
「あの、どうして?」あらぬ妄想が妙な期待に変わって、ぼくは声が上ずっていた。本当に彼女が一号機で、勇吉に言われてきたのかと思ったほどだ。
「昨日のお礼を言いに来たんや」
 ぼくの興奮をよそに、千鶴さんは穏やかな笑みを浮かべてきた。
 茜色の夕陽が彼女の頬をかすめていた。
「へ?……それだけ?」ぼくは拍子抜けしながらも、彼女から目を離せない。
「そうよ。ほんまありがとうね」
 夕陽の色を帯びた千鶴さんは少し照れているようにも見えた。
「いえ……」ぼくのほうは夕陽のせいでなく、顔が真っ赤になっていた。
「それでお礼というほどでもないんやけど……これ」
 千鶴さんは肩掛けのバッグから何かを取りだしてきた。それは葉書サイズで包装紙にくるまれていた。あ然としながらぼくは受け取った。中身を見たかったが、千鶴さんはぼくに渡すなり、「じゃあね」とあっさり踵を返そうとした。後ろを向いた彼女のワンピース越しに、女王蜂のようなお尻が浮かび上がる。
「あの!」ぼくは反射的に引き留めていた。
「ん?」千鶴さんはくるりと顔だけ振り向かせた。
「これ、ありがとうございます」
「ううん。潤はこれからデート? なんか、おめかししているね」千鶴さんは冷やかすように言って、それから「ふふ」と含み笑いした。
「え? いや……」
「そうや。うちがここに来たことは勇吉にいわんといて。あの子、嫉妬するから。俺の潤に手を出すな~ってね」
「へ? 嫉妬?」
 千鶴さんはすたすたと庭から出ていっていた。
 彼女はやっぱり一号機でなかったのか。当たり前のことなのに、ぼくは彼女からもらったプレゼントを持ったまま、しばらく途方に暮れていた。


 ようやく我に返って、プレゼントの中身を確認しようとしたときだった。今度はタッタッタと駆け足でこっちに向かってくる足音が聞こえてきた。直感で勇吉だとわかった。あれだけ待っていたのにぼくは隠れるように家の中へ入った。とりあえず千鶴さんにもらったプレゼントを玄関の靴箱の上に置いた。
「おおおっ、潤!」そのタイミングで、勇吉が駆け込んできた。
 合宿帰りにそのまま来たようで、ジャージ姿にでかいスポーツバッグを抱えていた。
「お、おお……」ぼくは即座に勇吉の表情をうかがった。いまさっきまで千鶴さんが来ていたのだ。入れ替わるように現れたので、千鶴さんと鉢合わせたのではないかと心配だった。
 だが、勇吉はそんなこともなかった様子で「悪い、悪い。遅くなって。ほな、いこか」と、ぼくの手首をつかんできた。「え? え?」一応、祖母に出かける旨を伝えておきたかったが、「おばちゃん、ちょっと潤と出かけてくるで!」勇吉は家の中に向かって大声を張り上げると、にいとぼくに笑いかけてきた。相変わらず、強引だ。とはいえ、千鶴さんが来ていたことはバレていないようだ。安心すると同時に、ぼくは心が浮かれた。勇吉を待ちに待っていたのだ。しかも、合宿先から直接来てくれたのだ。「おばあちゃん! いってくるで!」ぼくは勇吉に負けないぐらいの大声で叫んだ。
 庭に出ると、「よし、今日もチャリでいくで」勇吉がさっそく、空気を入れたばかりの自転車にまたがった。
「おっしゃ!」
 ぼくもひょいと後ろの荷台に飛び乗った。口にしてから気づいた。千鶴さんの前とは大違いだ。勇吉と一緒にいると「おっしゃ!」だなんて男っぽい言葉まで出るようになっていた。
 どこへ行くのか、誰と会うのかもまだ聞いていないけど、二人乗りをした途端、ぼくは勇吉と一心同体になった心地がした。
「タイヤの空気、入れといたで」ぼくは自慢げに話しかける。
「おお、サンキュー。今日は少し遠いからな。飛ばすで」勇吉がペダルを踏み込む。さすが勇吉だ。ぐらつくことなく、自転車は勢いよく滑り出した。
 段々畑のそばの農道をくだった。夕暮れのした、二人乗りの影が伸びていた。勇吉の体からは乾いた汗の香ばしい匂いがしていた。駆け下りる風のせいで、ぼくのせっかくセットした髪型は早くも崩れそうだった。
「合宿はどうやった!?」ぼくは声を張り上げた。一号機のことも気になっていたが、まずはなんでもいいから話をしたかった。
「おお。きつかったわ!」
「そうか。じゃあ疲れているのと違うか?」
「ああ? 違う、違う。そういう意味やない。オナニーができひんやろ。それがきつかったわ」
 勇吉は高らかに笑いながら、農道を一気にくだった。「なんやねん、それ」ぼくも勇吉の背中に向かって笑った。
 農道から二車線の道路に出る。さすがにこの時間帯はそれなりに車も多かった。センターラインを突っ走ることもできず、勇吉は道の端に寄って、ペダルを全力で漕いでいた。
 海のほうに向かっていた。Y町は海の近くが一番栄えていて、人口密度も高い。
「どこまでいくんや?」
 いよいよぼくは本題に切り込んだ。
「おお。町までいくで。そこに、一号機はおる!」
 勇吉がやっと一号機の話題を出してきた。
「へえー。なあ、一号機のこと、そろそろ教えてくれよ」
 一号機なんて呼び方はよくないと思っているが、名前を知らないのだから仕方がない。
「それはまだ内緒や。でも、安心せえ。さっきここに来る前、公衆電話から一号機に電話かけといてん。今夜は潤を連れていくって。一号機も潤のことを知っているからな。会えるのを楽しみにしているって言ってたで」
 まるでプレゼントを隠すように勇吉はもったいぶっていたが、一号機も心待ちにしているという言葉を聞けて、ぼくは少し安心した。
「おっと、バスや」
 勇吉が速度をゆるめた。後方から路線バスが迫ってきていた。バスはクラクションを鳴らしながら、ぼくたちの横を追い越していった。
 ぼくは何気なくバスを見上げた。
「あ……」
 ついさっき会ったばかりだから見間違うはずがない。窓際の席に藍色のワンピースを着た千鶴さんが座っていた。彼女も海のほう──これから町へ向かうのか。
「どうした?」勇吉は気づいていないようだ。
「いや、なんでもない」
 バスが遠ざかると、勇吉はふたたび自転車の速度を上げた。合宿が終わって疲れているはずなのに、休むことなくペダルを漕ぎ続けていた。
 時間にして十五分ぐらいで町が見えてきた。町といっても、Y町は人口二万人にも満たない田舎町だ。ショッピングモールなどもなく、町の中心部にわずかな飲み屋街と、個人経営の魚屋や薬局、本屋、洋服屋などの並ぶ小さな商店街がある程度だ。
「そろそろやで」
 瓦屋根の民家が密集する地帯に来ていた。ただ、昔ながらの日本家屋にまぎれて、鉄筋コンクリートのマンションもちらほら見受けられた。
 勇吉が自転車を停めた場所も、比較的新しそうな白い外観のマンションの前だった。三階建てで部屋数は二十ぐらいあった。エレベーターはなかった。
「何階?」
「三階や」勇吉はマンション前の路上に自転車を停めた。マンションの外観を見る限り、会社の独身寮といった感じだ。一号機はOLさんなのだろうか。
「一人暮らし……?」
 ぼくは訊ねた。
「そうやで。もともとは潤と同じで、京都市の人ねんけどな。こっちに転勤してきて、ここでひとりで暮らしておるねん」
 勇吉は説明しながらマンションの中へ入った。ぼくも後を追った。階段を昇りながら、ぼくは逸る気持ちをおさえきれず、「何歳の人?」と聞いた。
「確か、三十一やったな」
「三十一かあ」理沙さんは二十六歳で、静子さんは四十三歳だった。勇吉はやはり年上の女性が好きなのだろうか。
「はよう結婚せえって、親にも言われとるらしいわ」勇吉は他人事のように言った。
 三階まで上がると勇吉は廊下を進み、三○三号室の前で止まった。クリーム色の玄関ドアだった。勇吉がドアの横のチャイムを押した。



 さあ。ついに……一号機の登場を前にぼくはワクワクしていた。
 駆け寄ってくる足音のあと、ドアチェーンの外れる音がした。そして、ガチャリとドアノブの回る音──。
「山谷くん」
 わずかに開いたドアから声がした。ぼくの位置からまだ顔は見えない。ただ、勇吉を「山谷くん」と呼んだ声は、とても温かく包み込むような口調だった。
「おお、遅くなってごめん」勇吉が偉そうに言う。
「ううん。さあ、入って」
 一号機がドアを大きく開いた。ぼくの目にも一号機の姿が飛び込んできた。
 えっ……口には出さなかったが、ぼくの描いていた一号機とかけ離れていた。
 理沙さんのようなすらっとした美人でもなければ、静子さんのような浴衣の似合う熟女の色気があるわけでもなかった。
 髪はポニーテールで、縁なしの眼鏡をかけていた。メイクも薄くて、顔立ちもパッとしない印象を受けた。服装も上は白のワイシャツで、下はOLさんっぽい黒の膝丈スカートだ。良くも悪くも、どこにでもいるお姉さんって感じで圧倒されるような美人でもなかった。
 ただ、ひとつだけ「おっ」と目がとまったのは、ワイシャツから盛り上がった胸元だ。シャツのボタンが弾け飛びそうなほどの爆乳で、まさにバレーボールを二つ詰めているかのようだった。
 一号機はドアを開きながら、ぼくの姿を確認するように眺めてきた。「これが潤や! 俺の大親友」勇吉がお決まりのセリフでぼくを紹介する。
「苫田潤くんね。はじめまして。堀田夏帆(ほった・かほ)といいます」
 一号機は片手でドアノブを掴みながら、大きくうなずくように頭を下げた。
「はじめまして!」
 ぼくは自分でも驚くほど、ハキハキとした声を出していた。以前までのナヨナヨとしたぼくはもういなかった。勇吉と一緒だからか、それとも一号機が思ったよりも普通のお姉さんだったからか。いや、一号機なんて呼び方はよくない。
「うふふ。山谷くんの大親友とあって、元気いっぱいって感じなのね。苫田くんもどうぞ。中に入って」
 堀田夏帆さんは安心したように微笑みながら、ぼくを苗字で呼んできた。
 ひととおりの挨拶を終えると、ぼくたちは部屋に入った。
 マンションとあって、玄関から入ってすぐのところに小さなコンロの置かれた台所があった。お風呂とトイレも玄関の近くにあって、洗濯機も置いてあった。台所の前の廊下を過ぎると、奥に六畳ほどの洋室があった。あとは窓の奥にベランダがあるだけだ。1Kの狭い間取りであるが、洗い立ての服から漂うようなシャボンのいい匂いがしていた。洋室にはシングルのベッドのほかに、学生の頃から使っていそうな古びた勉強机、14インチのテレビなどがあった。クローゼットは扉の部分が姿見となっていた。姿見にはベッドも映っていた。
 勇吉はいつもと同じく、我が家に帰ってきたようにベッドにどっかりと腰を落とした。そして、「潤もこっちにこいよ」と手招きしてきた。一瞬躊躇したが、ここでもぼくはナヨナヨしなかった。
 勇吉の隣に腰掛けた。二人の重みでベッドがぎぃと軋んだ。
 夏帆さんは台所でお茶を入れていた。
「なあ、先生。早くしてくれ」
 勇吉が急かすように呼びかけた。
「先生!?」
「そうねん。夏帆は、俺が中学二年のときの担任の先生ねん」
 ここでネタばらしとばかりに、勇吉が白い歯をむき出しに笑った。
「え……じゃあ……先生と生徒のときから……?」
「ああ。俺が中二のときからや」
 ちょうど夏帆さんがお盆を手に戻ってきた。
「もう。そんなこと、大声でいわんといて」
 拗ねたように言いながら勉強机の上にお盆を置くと、夏帆さんは冷たいお茶の入ったグラスをぼくたちにそれぞれ渡してきた。勇吉はすぐさまお茶をごくごくと飲んだ。ぼくも真似るように一気に飲み干した。
 夏帆さんは勉強机の椅子に腰掛けていた。
「不思議な光景やわ。私のベッドで、山谷くんと苫田くんが仲良く並んで座っているなんて」
 教壇から生徒を見やるように朗らかな顔で言った。その顔を見て、ぼくはゾクゾクした。
 真面目そうな先生なのに、十四歳の勇吉とヤッていたなんて……ほんまはとんでもなく、いやらしい大人の女なんや……
 一号機──ロボのオモチャみたいなもんや。
 ぼくを洗脳するかのように、勇吉の言葉も脳裏でちらつく。
「苫田くんのことは、山谷くんから聞いているで。弟さんを川で助けてあげたんやろ。山谷くんは私といるときも、苫田くんの話ばかりしているんやで。妬けちゃうぐらい」
 縁なし眼鏡の奥の瞳を緩めながら、夏帆さんは告げ口するように言った。
「やめろよ、恥ずかしいやろ」今度は勇吉が拗ねたように言い返した。
 そんな会話を聞きながら、ぼくは早くこの先生を裸にして、勇吉と一緒に遊びたいと思っていた。


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