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自ら「脇役」に徹する「スーパースター」がいるチームはものすごく強い

日本中が熱狂したWBC(ワールドベースボールクラシック)が終わりました。

投打の二刀流でMVPに輝いた大谷選手や、準決勝でサヨナラヒットを打った村上選手の活躍は多くの人の記憶に残ったと思いますが、個人的に最も感銘を受けたのはほとんど出番が無かったあるスター選手の振る舞いです。

それが西武ライオンズの山川穂高選手です。

山川選手は昨年パリーグの二冠王(ホームラン、打点)に輝いた日本球界の「スーパースター」であり、間違いなく「主役」を担う存在ですが、それがWBCでは村上選手や岡本選手に先発を譲って控えに回り、出番は全試合を通じてたったの7打席しかありませんでした。
(村上選手は33打席、岡本選手は27打席)

山川選手が控えに回ったのはチームの事情(内野手のポジション)や監督の考えもあったかと思いますが、決して実力的に劣っていたわけではありません。本人としては「もっと試合に出たい!」という思いもあったことでしょう。

それなのに山川選手は一切ネガティブな感情を出さず、ベンチの中では終始笑顔を絶やしませんでした。そしてポジションを譲った村上選手や岡本選手が活躍すると自分のことのように喜んでいたのです。

実際私もほぼすべての試合をテレビで見たのですが、カメラで捉えた山川選手はどのような場面でも常にポジティブな表情をしていました。

元々明るい性格の山川選手がムードメーカーの役割を担うことでベンチの雰囲気も明るくなり、結果として日本は激闘を制して優勝することができました。

とはいえ、「主役」として招集されたはずなのに「脇役」に回ることになると面白いはずがありません。

普通の人なら頭では「チームのため」とわかっていても、心のどこかで「何で私が脇役なんだ?」という気持ちがあればネガティブな感情がどうしても顔に出てしまいます。

自分以外のメンバーが活躍してもチームが成功しても心の底から喜べないため、チーム全体の雰囲気が少しずつ悪くなり、チームのパフォーマンスが低下して勝てなくなってしまいます。

実際サッカーのワールドカップでも招集したスター選手の扱いをめぐって内紛が起こり、チームが早々と敗退したケースがありました。

もっと身近な例で言えば、職場のエース社員がライバルの昇進で不貞腐れてしまい、不平不満をまき散らしながらライバルの足を引っ張るようなことをしてチーム全体の業績が下がることもあります。

それなのになぜ山川選手は悔しさを乗り越え、チームのために自ら脇役に徹することができたのか?

もちろん本人に直接聞いたわけではないのですが、個人的にはこれこそが「人間としての器の大きさ」ではないかと考えています。

器が小さい人であれば自分の中には「自分」か「他者」のどちらかしか入り込めません。

「自分」しかない人は自分自身の損得や快・不快の感情だけで行動してしまい、「他者」しかいない人はただ他人に合わせるだけになってしまいます。

いずれにしても自分が損する状況になるとネガティブな反応をしてしまいますので、心の底から脇役に徹するなんてことはとてもできません。

一方で器が大きい人は自分の中に「自分」と「他者」の両方を入れることができます。

自分か他人かではなく、両方をつながった存在として捉えることで自分一人の損得を超えた判断ができるというわけです。

おそらく山川選手は「自分が活躍するかどうか」という小さい視点ではなく「日本が優勝するためには自分がどうするのか最善か」という大局的な視点で考えていたのかもしれません。

自分とチームをつながった存在として見ているからこそ、自分に出番が無くても他人の活躍を自分のことのように喜べたのだと思います。

ちなみに下記の記事は山川選手について直接言及したものではないのですが、アメリカの解説者が驚くぐらいのことですのでチームの中に山川選手のようなメンバーがいることは奇跡的なことかもしれません。

今回のWBCで日本が全勝優勝できたのは大谷選手や吉田選手、村上選手の活躍も大きいのですが、その裏には山川選手のような自ら脇役に徹する「スーパースター」が居たことも大きかったと思います。

ビジネスの世界でも「チーム」で仕事をしていく場面は数多くあるのですが、みんなが「主役」を担うわけではないので誰かが「脇役」に回る必要があります。

誰を「脇役」に回すかは悩ましい問題かもしれませんが、もしかしたら「最も器が大きい人」に脇役を担っていただくのがチームを強くする秘訣かもしれません。

今回のWBCではそんなことを考えさせられたとともに、山川選手の姿勢に深く感動しました。今シーズンの大活躍を心から祈っております。

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