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昭和の内職

昭和の50年代頃、うちのオカンだけでなく、隣近所には内職をやっているおばちゃん達がたくさんいたように思う。

アパート長屋の狭い家なのに、いつも内職の材料が結構幅を利かせていた。だけど、おまんまの種なので、うっとしいが仕方がなかった。そまつに扱おうものなら、オカンの怒りの鉄拳が飛んできた。そして、時々、オカンに内職を手伝わされることもあった。貧乏家の宿命であり、やはり仕方がなっかた。

だけど、ごくごくたまに、少ない内職の工賃の中から、お小遣いをくれることもあった。労働のあとのミカン水の味、わかるかな~わからねえ~だろうな~。おい、そこの坊や(笑)。

オカンはいろいろな内職をしていたと思うのだが、そのうちのいくつかを紹介してみたい。

一つ目は、金魚⁉
その金魚と言っても、水槽の中で泳いでいるあの金魚ではない。千鳥足のお父ちゃんが、お土産に持って帰ってくる寿司折りの中などに入っている金魚のことだ。

あっ、これ読んでわかる年代ってどこまでなんやろか。今の30代はもうわからんかな。昔のテレビ漫画では、酔っぱらったお父ちゃんが寿司折り持って歩いてるシーンて、度々出てきてましたよね。

もうずいぶん前から、実際に寿司折り持って歩いているお父ちゃん達を見かけなくなったし、しったか親父の私も、寿司折りを家に持ち帰ったことなど一度もないような気がする。そう言えば、高校で寿司屋のバイトしてた時は、日に数個は寿司折りの包装してたよな。

さらに、それどころか、最近は金魚自体を見なくなっている。

ちょっと説明すると、寿司折りや弁当の中に入っている金魚とは、金魚の形をした醤油さしのことね。赤のキャップ、なつかし~

オカンがやっていたその金魚の内職とは、工場で成型された金魚が数珠つなぎになっていて、それを一つずつはずしていく作業だった。

確か、お米が入っていた大きな袋(この袋も見なくなったな)に、金魚がたくさん詰め込まれていて、数にして数千個の金魚が入っていたいたように思う。

洗濯や掃除を終えたオカンが、数珠つなぎになっている金魚をひとつずつ手作業ではずしていくのだが、一袋やって、せいぜい数百円ほどだったのではないだろうか。

内職の値段は、一つ仕上げて何十銭というのが普通で、良くても1円、2円ぐらいというようなこと聞いたような気がする。だから、とにかく量をこなすために、どこのおばちゃんも物凄いスピードで、手を動かしていたように思う。

二つ目は、刺繡の内職

黒いエナメルバッグ?の表面に、そのバッグのキャラクターを縫い付ける内職だったように思う。この内職は、少々刺繍の技術が必要だったようで、誰でもできる内職ではなかったみたいだった。

うちのオカンは若い時に洋裁学校のようなところへ行っていたらしく、縫物ができた。それで、その内職もやれたようだが、とにかく一つ縫い終わるのに時間かかるうえ、綺麗な仕上がりを要求されていたようで、あまり長くは続かなかったようだ。

僕は、この刺繡の内職をしているオカンのことが、誇らしくて長く続けてほしいと思っていたので、オカンがその内職を止めた時はとても残念だった。

最後に紹介するのは内職ではなく、ゴルフ練習場でのパートアルバイトだ。

この仕事に僕も何回か手伝に行かされたので、印象深い。

ある日、夜の八時ぐらいだったろうか。オカンが一緒にゴルフ練習場へ行こうと言ったのだった。

そのゴルフ練習場は、子どもたちにとって、虫取りの聖地みたいなところで、よく知っていたのだが、そこでなにをするのかは皆目わからなかった。ただ、オカンのお手伝いというのはわかっていた。

オカンについてゴルフ練習場へ行くと、おばちゃん達が十数名はいただろうか、その中には、僕と同様にオカンについてきている友達もいた。

ゴルフ練習場には、お客さんの打ったゴルフボールが、グランドの至る所に転がっていた。その数、数万個ぐらいはあっただろうか。

それを「今から全部拾うんや」とオカンから聞かされた時には、「ウソやろ。何時間かかんねん」としか思えずに、僕は途方に暮れていたのだった。

ゴルフ練習場の営業が終わり、いよいよ球拾いのお時間。

おばちゃんたちが一斉にグランド内になだれ込み、ゴルフボールを拾い始める。僕もオカンの後ろにつき、無我夢中でボールを拾った。ボールを拾い始めると、これが案外面白くて、僕は、オカンよりもたくさん拾ってやろうと、ゴルフボールを求めて、グラウンドを速足で動いた。

拾い始めて一時間ぐらいたっただろうか。あとどれくらい残っているのかと、顔を上げてグランドを見渡すと、ほとんどのゴルフボールが無くなっていた。あれだけあったゴルフボールが、ものの短時間できれいさっぱりと消えていた。人力の凄さを思い知った。

それ以後、僕は省エネだとかの環境問題を考えるとき、このゴルフボール拾いのことをいつも思い出す。

現在は、待ったなしの脱炭素社会だそうである。

見直しませんか、人力。

人間一人の力は、たかが知れているかもしれませんが、束になるとすごいパワーを発揮しますよね。

ピラミッド、万里の長城、モアイ像などなど、動力はみんな人力でっせ。

あれ、内職の話、どこいった。




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