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変化を見届けてきた石"有楽町 ストーン"

味わい深いカフェがまた、再開発の波に飲まれ、消えてゆく。
有楽町ビルが開業した1966年から店を構えるカフェ「ストーン」。建物の建替えに伴いこの秋に閉店となる。
レトロ建築として度々取り上げられるこのカフェは長年に渡り、有楽町のビジネスマンを始めとして多くの人たちの憩いの場所として機能してきた。

店名の通り、店内の多くが石貼りによる内装だ。凝ったデザインは著名デザイナーによるものかと思いきや、初代オーナーの実家が石材店だったことからショールームを兼ねた喫茶店だったという。
現在は家具など入れ替えをしつつも内装は開業当時のままで3代目がお店を守っている。

店頭サイン

1.当時の流行り?渾身のモザイク貼り

床のモザイク石貼り
店内の様子

店内に入ってまず圧巻なのが床のコントラストが効いたモザイクタイル貼りだ。これは大理石を細かく砕いて、並べていったのだろう。細かいピースにしてもこのような大胆な曲線を描くことはとても難しい。目地部分の微妙な調整で白と黒よライン際がきれいに仕上がっている。1963年に竣工した村野藤吾氏が手がけた日生劇場なども同様にモザイクタイル貼りにより美しい模様が描かれている。
そしてこれらはウィーンにあるフンデルトヴァッサーのクンストハウスができる20年以上も前の出来事だ。もしかしたらこの床も後の建築に影響を与えているのかもしれない。

2.変化を受け入れてきた変わらない空間

壁面の御影石
謎の天井

有楽町は銀座や日比谷が程近く、ラグジュアリーブランドのお店やホテルを訪れる人がいる一方で、このカフェがある有楽町ビル周辺はまさにオフィス街だ。このカフェはビジネスマンが一服したり、あるいは商談の場として使われてきただろう。最近では就活生や移動の隙間時間の作業に、またコーヒーや食事を楽しむ人もいる。
壁の溝が施された石は本来御影石なのだが、経年で何故か珈琲色?に近づいてきている。
天井は所々に円形のパイル生地のような怪しい物体が見える。かつて天井から飾りが吊られていたようだが現在は安全性の観点で取り外されているらしいので、その名残かもしれない。
時代やお店を利用するシーンが変化しながらも、変わらない石の空間が常にそれらを見届けている。

3.残して欲しい歴史を物語る意匠

有楽町ビル壁面
有楽町ビル手摺

このカフェと同様解体にあたり名残惜しいのが、ビルそのものの意匠だ。設計は三菱地所となっているが、内装の壁面には、中央部が窪んだお皿状のタイルがびっしりと敷き詰められている。釉薬の風合いか窪んだ部分はよい濃くなっていてそのムラも味わいがある。そして間違い探しのように同形状の黒いタイルが混ざっているのも楽しい。
さらに階段手摺は、ステンレスが幾重にも重なり、どの角度で見ても美しいうねりを生み出している。現代ではここまで凝ったものは作れないかもしれない。


ホットコーヒー

情報がこれほどに容易に収集でき、リアルもバーチャルも併存する世の中において、体験すべきリアルの建築の存在意義も変わってきている。
このような空間は是非あり続けて欲しいと思う。

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