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デザイナーは何を選ぶ?"デザインギャラリー1953 わたしの手土産"

手土産を選ぶ時はいつも悩む。
何故なら手土産は、送る相手の嗜好や人となりや自分との関係性を読み解き、自分が相手に伝えたい想いがカタチとして見えてしまうからだ。
そしてそれは単にお金をかけたり、希少なものがよい訳でなく、相手がそのタイミングや状況において喜んでもらえるものを選ぶのは難しく、あらゆる意味においてセンスが問われる。

日本デザインコミッティーは1950年代前半「グッドデザイン運動」を展開するため、剣持勇、亀倉雄策、渡辺力等有志15名によって始まった活動。1964年には、松屋銀座にデザインギャラリーを開設し、様々な展示会の企画・運営を行ってきた。
同じ松屋銀座7階にある「デザインコレクション」は、コミッティーメンバーによってセレクトされた世界中のデザイングッズが販売されている。

会場の様子
会場の様子

歴代メンバーもまた現在もグラフィック、建築などあらゆるジャンルの第一線で活躍する面々がこのコミッティーに名を連ねている。今回の展示会はそんなデザイナーや建築家が日頃どのような手土産を選んでいるか、品々とコメントと共に紹介されている。


1.見て食べて美味しい世界に誇る逸品

妹島和世氏の手土産

ルーヴル・ランスの設計など海外でも多く作品を手がける建築家ユニット「SANNA」の妹島和世氏。比較的大きな建造物も彼女の手にかかると軽やかに仕上がってしまう。金沢の21世紀美術館に見られるスチレンボードで作られたようなシンプルな見た目は、入念に練られたディテールによって実現している。
建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞も受賞し、もうてっぺんまで辿り着いた感があるが、あまり周りの政治的な動きに惑わされず我が道を行っている気がする。
そんな彼女が海外に持っていくのがとらやの羊羹とは納得だ。伝統に裏付けられた確かな技術と可愛らしい見た目。日本の情景を切り取ったデザインは海外の人からも受けそうだし、羊羹の絶妙な透け感を日頃素材や光を扱う妹島さん自身が気に入ってるのだろう。

2.100年使える精密茶筒

面出薫氏の手土産

面出薫氏は、国際フォーラムのライティングデザインなどを手がける照明デザイナーだ。照明が主張し過ぎず、建築に自然に組み込まれていながらも不思議な光の演出に引き込まれる。
光の魔術師のような面出氏が、海外の大富豪に贈る手土産が開花堂の茶筒だ。
開花堂は明治8年創業の最高級茶筒司。ブリキや銅、真鍮を材料で高い気密性の茶筒を作り上げていく。戦争中に金属類が回収されていた頃も隠れて茶筒作りをして3代目が投獄されていた、というのだからもはや執念なのだろう。上蓋を手を離すとスーッと自重で閉まっていく様を見せると誰もが感嘆するという。大富豪がいくらお金を出してもコピーできない、日本ならではの技だ。

3.貰えるなら嬉しい、の醍醐味

粟辻美早氏の手土産

姉妹でグラフィックデザイナー粟辻美早氏。お父さんも著名なグラフィックデザイナーの粟辻博氏で歴代のコミッティーメンバーだ。彼女が手掛けるのは身近にあるお菓子やお茶のパッケージデザインから空間デザインまで。どれも何だか美味しそうで平和なデザインだ。
日常的に料理をする彼女が手土産に選ぶのは、気の利いた消えものだ。OLIS社のGERACIバージンオイルは、シチリアの風景や自然が大胆に描かれた陶器のボトルにオイルが入っている。絵柄はそれぞれ異なり、複数あったら選ぶ楽しみも生まれる。
ちょっと良い塩やオイルは、自分で買うまで至らないが貰ったら確実に嬉しい。そんな建前でないリアルな人の気持ちに応える逸品だ。

デザイナーが選ぶ手土産を見ると彼らの作り出すデザインや建築、インタビューなどでも読み解けない、パーソナルな部分が垣間見えて楽しい。

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