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【投書】「偉人の教訓 現実に生かす」(2022-09-24山形新聞)

【全文】
 世を去った偉人に対し、時の政府がその功績をたたえて国葬を打診したが、遺族がそれを辞退した例がある。その偉人とは、医療衛生の改革者、フローレンス・ナイチンゲール。今から百年以上前のイギリスでのことだ。

 昔の伝記では「負傷兵の看護に尽くした聖者」と描かれていたようだが、正確には、当時の劣悪な野戦病院で命を落とす兵士の死因の統計データを取り、感染症死が多いことを明らかにして軍に衛生状態を改善させた人物である。結果として兵士の死亡率は激減した。近年はこの統計学者としての功績が知られるようになってきている。

 個々人の勘や献身に頼るのでなく、データを集めて今取るべき策を導くという方法は、まさに現代日本の行政分野で求められる「証拠に基づく政策立案(EBPM)」だ。

 一方ここ数年の日本はといえば、面倒な割に効果が微妙な軽減税率、突然の全国一斉休校、布マスク全戸配布など、世間知らずの貴族の思いつきかのような政策が相次いできた。本来なら政策によって恩恵を受けるはずの国民が、かえって苦労して対応しなければいけなかったり失望したりという世の中ではなかったか。

 変革者に私たちがするべきなのは、異例の弔いよりもその教訓を現実世界に活かすことだ。私たちはナイチンゲールに学び、今話題となっている政策にはまともな根拠があるか、単なる気休め策ではないか、または都合のよい感動物語が仕立て上げられていないか、冷徹な目で見通す必要がある。


【紙面】

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