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朝井 リョウ / 死にがいを求めて生きているの

植物状態で入院している青年がいて、彼の元に頻繁にお見舞いに来るもう1人の青年がいる。その病院で働く看護師の視点から始まる物語。

それが、まさかこんな形で帰結するとは。

話が進むにつれて、自分が最初に感じていたこの世界のイメージが、どんどんと塗り替えられていく。

例えばある人物が、1章でこんなセリフを言う。

「だったら、今日が、何かが変わる前日なのかもしれないって、思おうよ。」

とてもいい言葉だなと思いメモに残す。
そして最後まで読み終わった後に、改めてこのセリフを見た時、その印象の違いに愕然とする。

天才朝井リョウの真骨頂。今作でも、まざまざと見せつけられた。


俺は、死ぬまでの時間に役割が欲しいだけなんだよ──日常に倦んだ看護師、承認欲求に囚われた大学生、時代に取り残されたTVディレクター。交わるはずのない彼らの痛みが、植物状態の青年・智也と、彼を見守る友人・雄介に重なるとき、歪な真実が露わになる。自滅へとひた走る若者たちが抱えた、見えない傷と祈りに触れる物語。

巻末あらすじ

朝井リョウ / 死にがいを求めて生きているの

「共通のルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」
伊坂幸太郎の呼びかけで始まった、8名の作家による競作企画『螺旋プロジェクト』
我らが朝井リョウが描くのは平成。
この螺旋プロジェクトの共通ルールの一つが、「海族」と「山族」の”対立”を描くこと。
でも平成という時代は、”対立”を排除した時代。
人生の大半を、平成という時代に生きてきた自分にもとてもよくわかる。
自分はギリギリのところで避けられたけど、すぐ後ろで土曜日は全て休みになり、運動会で順位をつけることがなくなり、危ない競技は消えていった。
ナンバーワンよりオンリーワン。SMAPの曲が歴史的な大ヒットを記録した。
そんな時代。
特別付録で著者が語った言葉がとても印象的だった。

世界から順位をつけられたりする苦しみを手放す代わりに、自分で自分を見つけなければならない終わりのない旅の始まりでもあります。

特別付録「本作と螺旋プロジェクトによせて」

人と比べられなくていいんだ。ありのままでいいんだ。
それって実はとても残酷で、とても苦しい。

そんな時代を舞台に、見事に”対立”を描き切った朝井リョウ。
間違いなく”彼ら”は、ずっと戦っていた。死にがいを求めて、戦い続けていた。
凄まじかった。1章を読んでなんとなくイメージしたこの作品の世界が、どんどんと塗り替えられていく。
そして世界が塗り替えられるたびに、自分にブッ刺さってくる刃物のような言葉。痛い。
朝井リョウは、”今の時代の苦しさ”を描くのが本当に巧い。
だから読んでいて、痛い。
でも、この痛みを求めて、朝井リョウを読んでいるの。

最後に。
『螺旋プロジェクト』他の作品を読まずとも、十分にこの一冊だけで楽しめます。
ただ、どうやってこの”対立”の歴史が紡がれているのか、やっぱりちょっと気になってしまうわけで。
とりあえず伊坂幸太郎だけでも読んでおこうかな、なんて思う今日この頃。
皆様もご興味があれば是非。

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