見出し画像

外山 薫 / 息が詰まるようなこの場所で

タワマン文学の雄・窓際三等兵の父親の息子(?)・外山薫氏による初の長編小説。

なに、君はなんだかんだタワマン文学が好きなの?って話ですが、えぇ、好きなんですよ。
タワマンに住む人間の妬み、嫉み、ヒエラルキーにマウンティング。もう完全に他人事として楽しんでいる。
だから今作も、そんなことを期待しながら、割と気楽に手に取ったわけだが、読み終わった後、ひどく後悔をした。いい意味で。

タワマンに暮らす2つの家族を、それぞれの父親、母親の視点から1年という時系列で描いた作品。
本作に出てくるタワマンの住民たちの抱える悩み、焦りは、とても他人事とは思えなかった。

タワマンには3種類の人間が住んでいる。
資産家とサラリーマン、そして地権者だ。

資産家もサラリーマンも地権者も、そしてタワマンに住もうがボロい賃貸に住もうが、きっと誰もがその人生の中で悩みながら苦しみながら戦っている。
それぞれの立場になってみないと分からない苦悩。
タワマンは、逃げ場のない"東京"という地獄の縮図なだけなんだなと。

子供の将来のためと言いながら、自分の将来のことを考え、子供を受験戦争に送り込む母親。
40を過ぎ、何のために仕事をしているのか、分からなくなってしまった父親。
田舎の閉塞感に耐えられず、東京に出て夢を叶えようとした母親。
決められたレールの上で、自分自身を騙しながら、期待される人物を演じ続ける父親。
そしてしがらみや葛藤と戦い続ける子供たち。
構成が素晴らしく、とても読みやすくて、とても面白かった。
どの親も悩んでいるし、どの子供も悩んでいる。
特に今作では、子供の将来を思う親の気持ちがフォーカスされていたように感じたが、もうなんというか今自分が何となく思っているそれらとドンピシャで、2年後、5年後10年後…考えるだけで胸が苦しくなってしまった。

今の自分の足元を見つめ直してみる。
昇格を諦めてしまっている現状や上がる見込みのない給料、身の丈に合わず毎月のしかかってくる家賃、妻の復職、家事育児の負担、子供の将来。。とにかく先が見えないし後ろに逃げ場もないこの東京で、がんじがらめになって生きてる。
毎朝子供を送る保育園に並ぶテスラの列。
駐車場にはカイエンやGクラスが並ぶ豪邸。
高級低層マンションに入っていく家族連れ。
内心小馬鹿にしていたけど、軽く1億はいくペンシルハウス。
歩いているだけで吐きそうになるようなこの場所で、息が詰まるようなこの場所で、歯を食いしばってなんとか、生きている。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?