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外弁慶の泣き所。

 今となってはあまり信じてもらえない話だが、所謂病弱な少年時代だった。様々な疾患に罹り、ついでに怪我や故障も多かった。ほとほと自分に嫌気がさしたので、せめてフィジカル面を鍛えようと中学の半ばから高校の間はしっかりと運動して基礎を作った。その後長期間に亘る栄養過多で出来上がったのが今の体躯である。土地を整備すればある程度立派な物が建てられるという類の話で、重課金ボディーと言っても差し支えない。

 仕上がっているこの身体の外骨格をハードウェアとするならば、それをスムーズに動かくために体内で働く臓器の一切がソフトウェアだろう。昔からここがウィークポイントなのだ。鍛え方がイマイチわからない。少年の時分よりはかなりマシにはなったが、ハードウェアの頑強さにある程度追従しているだけで、比べて弱いことには変わりないのだ。
 ちなみにハードウェア、ソフトウェアの話はたぶん全然例えになってない。いつも適当な事言ってごめん。素直にI'm Sorry。

 普段から社会人として世間に溶け込んで生きているため、年に一度健康診断という名の自分と向き合うイベントが存在する。それなりに長いこと生きてきたのでハード・ソフトの両面とも検査しないといけない。
 そして、経年により今回から検査項目が増えた。噂に名高いバリウムである。いつのまにやらそれが推奨される年齢まで来てしまったわけだ。この歳にしてまだまだ未経験にチャレンジできるなんて、なんて人生を謳歌しているんだろう。

 初めてのバリウムは何とも言えぬ味わいだった。やたらにもったりとしていて、常温の粉っぽいシェイクみたいだ。仄かに駄菓子みたいな甘みがある。飲み干すには重く、喉から胃へと這い下りていくのが感じられた。
 そのまま検査台に乗せられ縦横無尽に動かされたことと、何故か途中で薬剤を追加されたことで変に疲れてしまったが、先日の健康診断も滞りなく終わった。しかしながら空腹だった。12時間の断食は体よりも心を蝕む気がする。

 トーマス・ウッドロウ・ウィルソン曰く「空腹では隣人は愛せない」

 そう、私は自分一人のためではなく、隣人愛のために今から爆裂カロリー摂取をする。
フィラウティアφιλαυτίαではなくアガペーἀγάπηなのだ。わかってほしい。愛こそすべて。

 愛を求めて彷徨った私はこの後高菜明太マヨ牛丼とダブルチーズバーガーセットを食べ、生牡蠣とポテトチップスも食べることとなった。もちろんポテトチップスは九州しょうゆ味。考え付く熱量をただただ自分に流し込んだ。ワールドイズマイン、ここが世界とカロリーの中心地だ。


§§§


 翌日。結論から言うと20年ぶりくらいに牡蠣にあたった。
 何てことはない、蓋を開けてみると私の体は爆心地だったのだ。ワールドイズエネミー、何が隣人愛じゃい。神も仏も居やしねぇ。

 そして実際開いたのはトイレの蓋、あとついでに私の胃から口もぽっかり開いたし、空いたし。19時~翌4時まで床を厠を行ったり来たり、寄せては返す波のように。気が遠くなる瞬間と夜が混ざって耳鳴りしそうなほど静かな中で、ひたすらに吐く。嗚呼、世界でひとりだけになってしまったかもしれない。あまりにも非生産的な時間に吐き気を催してくる。あ、既にか。
 Don't worry, I'm vomiting!安心してください、吐いてますよ。

 情けなしや私の体、こんなに弱って。と、思ったのも束の間。本当に束の間2時間半後、起きてしまったので仕事に行きましたとさ。その夜には酒も飲みましたとさ。
 強靭なりや私の体、こんなに育って。食あたり半日復活はさすがに初めてだった。微熱あったけど無視無視。

 奇しくも同時期に広島で生牡蠣食べて散った旅人さんのポストへのリプライに「広島人は生牡蠣食べません」みたいなの書いてあるの見かけて、じゃあ私は何なのだろう、みたいな気持ちになった。主語大きいの良くないよ。現にここにいて牡蠣にあたっていたよ。暴れたろかな。

 内側が弱いから内弁慶の逆ってことでさ、単純に内↔︎外って思って適当にタイトル付けておいたけど、外に強い弁慶ってそれただの弁慶だったね。
 ガチ弁慶みたいに強いまま誰かを護って立ち往生するのを人生の目標にしようかな。しかし悲しきかな、護衛対象募集中なのでしたとさ。

 寒さが身に沁みますね、さようなら。

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