逃げる夢(卒業編)|#シロクマ文芸部
「逃げる夢」ではじまるお話を書きます。
2作目です。
#シロクマ文芸部 さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
逃げる夢はこれが初めてではない。
そろばん3級検定試験の前夜も、
クロール25mテストの前夜も、
中間テストや期末テストの前夜も、
高校受験の前夜も、
大学受験の前夜も、
入学式や卒業式の前夜も、
仕事で企画書の納期が迫った時も…
私は逃げる夢しか見たことがない。
これまで生きてきたどの場面においても逃げ出したいという潜在意識がそうさせてるのだ。
◈◈◈
このホテルの披露宴会場は都内でも一番大きい。招待客が続々入場し着席していく。有名タレントや有名経営者、誰もが知っているであろう顔がずらり並んでいる。
私は今日結婚する。
相手はIT企業経営者だ。
誰しもが羨む結婚だ。
3カラットのダイヤモンド指輪もいただいた。
それなのに心は沈んだまま、この日を迎えてしまった。
学生時代から長年お付き合いしていた彼と別れてこの結婚を決めたのに、まだその人のことが忘れられないのだ。
人が聞いたら呆れる話だ。
だから誰にも言えるわけがない。
◈◈◈
バージンロードを父と歩く。
その先には新郎が待っている。
◈◈◈
「エレーン!」とダスティン・ホフマンが連れ去ってくれることはない。
あれは昨夜の夢だ。
逃げることはできない。
私は神父様の前で永遠の愛を誓った。
◈◈◈
(終)
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