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連作短編|揺られて(後編)❻|桜子

就職率97%の大学だから当たり前に就職できると思っていたのに、一般企業へ就職はできなかった。自分は3%のうちの一人になってしまった。

卒業してからは『大学生です』から『フリーターです』に自己紹介の一言も変わり、世間からの外れてしまった疎外感を抱えて生活している。

家族には就職していないこと責められたが、仕方ないじゃないの。だって企業が内定をくれなかったのだから。エントリーシートもたくさん送ったし、二次面接までこぎつけたこともあったけど、今さらそんなことを嘆いても仕方ない。

アルバイトとマッチングアプリで忙しく過ごしているうちに、いずれは中小企業へ入りたいという気持ちも薄れていった。

華やかな社会人生活を送っている友人たちとは自然と連絡が途絶えた。もう何年もやり取りがないLINEアカウントは随分と下の方にいってしまい、目につくこともなくなってきた。

そんなある日、久しぶりに彩乃からLINEが届いた。送りたいものがあるから住所を教えてほしいという。送りたいものなんて”アレ”しかない。”アレ”に決まっている。

送ってほしくなかったけれど、断ることもできずに住所を知らせた。
案の定、届いたのは結婚披露宴の招待状だった。

同じくらい遊んでいたし、パパ活だってやっていたのに、まさかあの彩乃が有名企業に就職できるなんて思いもしなかった。どうやって潜り込んだのだろう。パパ活で?まさかね…

結婚披露宴か…
行けない

友人たちの華やかな社会人生活など聞きたくないし、こちらの生活も詮索されたくない。

卒業してから連絡ひとつなかった彩乃に対して憎悪が沸いてきた。世間に言えないようなことを散々やってきて幸せになろうだなんて許せなった。

マッチングアプリのパパ活は何歳までが売りなんだろう… そんなことを考えながら今日までやってきた。

マッチングアプリ活動のなかで、彩乃のパパだったある会員が今は自分のパパになっている。今日のデート相手はそのパパだ。偶然ではあるが、狭いアプリ内での出会いだからそんなこともある。男たちの話など聞く気もなかった彩乃の評判はすこぶる悪かった。

会員内でのお互いの情報を漏らすことはタブーとされているが、他の女性について興味があるので色々と聞き出すときもある。常に聞き役に徹することを意識しているので、お悩み相談会になり、泣き出す男もいる。いつだったか一緒に死のうと言われたときは逃げたけれど。

この招待状の返事をどうしようか… 欠席はいかにも”就職できていませんから”みたいだから、一旦は出席で返信はがきを出しておいて、近くなったら何か理由を作ってLINEで『ごめんね』にしよう。

招待されている友人たちはみな就職している。きっと仕事の話題に花が咲くはずだ。そして彼女たち自身が披露宴会場の花となり、男性招待客を魅了する。二次会で素敵な男性と出会うかもしれない。

やはり披露宴へ行きたい。でもフリーターであることが心にブレーキをかける。絶対にだめだ行くことはできない。よく考えてみれば、美しい花がフリーターでは何の意味もない。行ったところで、美味しいモノは友人たちに横取りされてしまうのが目に見えているではないか。

「何を考えているの?」

「たいしたことじゃないの」

「悲しそうだね」

「うん悲しい」

「僕が何かしてあげられることはない?」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてひとつお願いしようかな」

悔しい気持ちでいっぱいだった心が和らいでゆく。久しぶりの高揚した気分に自然と笑顔がこぼれた。

後編❼特別編2へつづく


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