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【私家版】1から作る麻婆豆腐の作り方


○麻婆豆腐作りには一過言ある

北京鍋というものがある。
鉄鍋で持ち手がひとつ付いている、中華料理屋でよく見る調理器である。なまじ鉄の塊だから、強火にも耐えられ、その分周囲の空気を歪ませる程に熱を発する。

私はソレを目の前にして、真夏の厨房にただ一人立っていた。

中にはグラグラと煮立った赤い液体が入っていて、味見をしては何かしら調味料を足す動作を繰り返していた。それも何度も。
そうしてやっと納得行く味になったところで、湯がいておいた角切りの豆腐と刻みネギ、そして溶いた片栗粉を入れる。味の濃度が変わるので、そこから更に調整をする。黙々と、ひたすらにその作業を続けていた。
真夏の暑さと鉄鍋の熱気、狭い厨房でそれらは混ざり合い卒倒しそうな暑さを作り出していたが、私はそんな中でもひたすら麻婆豆腐を作り続けていた。
それが10代最後の私の夏であった。

なぜそんなことをしていたのか? 理由は単純である。
納得いくまでやめない。
それが私の麻婆豆腐作りだったからだ。
いかに熱帯のごとき灼熱の厨房であっても、いかに長時間試行錯誤を繰り返そうとも、欲しい味になるまで調理をやめない。それが私の麻婆豆腐に対する姿勢であった。それしか知らなかったとも言える。
最近、麻婆豆腐を作ることはほとんどない。しかし、身体には染み付いているので夏になると今でも思い出す。
ゆえに、今でも麻婆豆腐作りには一過言ある。

○麻婆豆腐を作るのは楽しい

上記の内容だけではまるで修行のような印象になってしまうが、実際は楽しさが多くを占めていた。無論、絵に描いたような貧乏学生だったが故に金がなく、失敗できないししたくないという背景もあった。
それでもやはり、原動力は楽しさであった。
1から作る麻婆豆腐は何度作っても完全には同じ味にならない。スパイスカレーのようなものだ。私は麻婆豆腐から多くの料理の基本を学んだし、料理という行為自体が未だに好きなのは、当時の経験が大きく影響している。
ただ、調理頻度が減った今、身体で覚えている麻婆豆腐をどこかに記録したほうが良いのではと思い立った。
今まで当たり前にあったものこそ、記録せねば消えてしまうという事はよくある話である。
ではどこに記録するのか? ここである。

○1から作る麻婆豆腐の作り方

この作り方を読む際には2つ注意がある。
1・材料と調味料の分量は一切書かない。理由は後述する。
2・一度すべて読んでから調理に入って欲しい。調理しながら、順に読んでいけば出来るというような書き方では書いていない。

まず、材料は以下の通りである。


=材料=

食材
・豚挽肉(他の肉でも良いし、大豆ミートでも良い)
・ねぎ(青い部分も白い部分も好みで使えばよい。私は結構多めに入れる。刻みネギを買ってきて使っても良い)
・木綿豆腐(私は多めに入れる)
・ニンニク(チューブではいけない。生の物を使う
・水(まずくなければ水道水でいい)

調味料

・片栗粉
・粗塩(食塩ではいけない)
・コショウ
・粉末一味唐辛子(鷹の爪はNG。あくまでも粉末の一味唐辛子を使う
・みりん
・調理酒
・豆板醤(辛さ調節にはユウキの四川豆板醤が良い。瓶もチューブも可)
・甜麺醤(無ければ赤味噌でも良いが、やはり甜麺醤が好ましい)
・油(何でも良い、好みのものを使う。強いて言えばクセはない方が良い)
・液体塩こうじ
・鶏ガラスープ粉末(私はユウキの化学調味料無添加のガラスープを使う)
※分量はあえて書かない。食材は好みの分量で良い。調味料は後述の作り方を見れば、書いてない理由が分かる。
※山椒は使わない。しかし好みで使っても良い。


次に作り方である。


=作り方=

①鍋に「油」をひき、「ニンニク」を好きな量入れ加熱する。

ニンニクが焦げない内に「挽肉」を入れる。ここでしっかり炒めると肉の臭みが取れて良いらしい。またここから味見を頻繁に行うので、豚肉の場合は半生状態で口にしないようにする予防の意味もある。

液体塩こうじ」「甜麺醤」「コショウ」「料理酒」を少し加え軽く炒める。挽肉にもある程度味を付け炒める事がポイント。

茶碗2杯分程度の「水」と「鶏ガラスープ粉末」を加え加熱する。少し濃い目くらいの味になれば良い。

本格的に味を付ける。ここでしっかりと味付けを行うのがポイントである
まず「みりん」「甜麺醤」「液体塩こうじ」を加え甘みを強めに付ける。少し甘ったるいくらいでちょうど良い。ほのかな甘みでは後で加える辛みに負けるのでとにかく甘み強めで行く。液体塩こうじもほのかな甘みを生み出すのでこの時点で入れる。
次に「粗塩」を加える。塩辛いくらいで良い。
最後に「豆板醤」「一味唐辛子」を加える。ユウキの四川豆板醤は少量で恐ろしく辛くなる。しかも後から来る辛みになる。故に量の調節には注意せねばならない。

ここで独断と偏見の辛み調節法について説明する。
唐辛子系調味料は、主に3種類存在する。それぞれ特性が異なるので、これを意識しながら調整していく必要がある。
・豆板醤:
 後から来る辛みになる。
 麻婆豆腐特有の辛味を作る。
 加熱する程辛みが弱くなる。

・一味唐辛子:
 食べた瞬間来る辛み、しかしすぐに引く。
 最初にパンチのある辛さを出すのに使う。
 加熱する程辛みが弱くなる。
・鷹の爪:
 一味唐辛子と効果は同じ。
 ただし加熱する程に辛みが強くなる。

ここで鷹の爪ではNGという理由が分かる。鷹の爪ではその特性上調整がしづらいのである。調理時間が長引く程辛くなるのでは、この作り方だと失敗のリスクが跳ね上がる。
一方、豆板醤と一味唐辛子は辛くなりすぎたら加熱して辛みを飛ばし馴染ませる事が出来る。つまり失敗しづらく、調整しやすいのである。

ここでの辛み付けの目安は、最低限のバランスが取れている状態にする事である。強めの甘みと塩気をつけたスープは、ただ辛みを足しても甘くて塩っぱくて辛い赤い液体になる。実際、この時点ではかなりアンバランスな味になっている事が多い。しかし、それでいい。

ここからひたすら調整していく。
調味料を入れる順番など問わず甘味(みりん、液体塩こうじ)・塩味(粗塩)・辛味(コショウ、一味唐辛子、豆板醤)・うま味(鶏ガラスープ、甜麺醤)を、各調味料を加えながら微調節していく。しつこいくらいに、理想の味になるまで調節する。

⑦「作る量分の水」を加える。大量に作りたければ大量に入れれば良いし、そんなにいらなければ水を加えず⑦に進めば良い。水を加え煮立ったら⑥と同じ要領で味を調節する。

⑧「ネギ」を好きなように細かく刻み入れる。「豆腐」パック内の水を入れる(うま味が増す気がする為)。豆腐本体は角切りにして入れる。豆腐は出来れば事前にしっかりと湯通しすると型崩れを防げるが、必須ではない。湯通し時には微量の塩を入れる。

片栗粉を溶いて入れる。味が薄くならないよう⑦で作ったスープで溶くのが望ましいが、水溶きでも良い。
溶いた片栗粉を入れた後は、一気に強火で加熱する。これで食感が良くなる。
硬さは好みで良いが、私はかなり硬めになるよう多めに入れる。ただし、片栗粉を多く入れ固く作る程、味が薄く感じる様になる。
この為豆腐が砕けるのも厭わず最後の味調整を行う。薄いと感じたら迷わず調味料を入れ⑥と同じ要領で味を調節する。このしつこい調整が最大のポイントである。


○麻婆豆腐とは、味の探求である

お察しの通り、この麻婆豆腐の調理法はひたすら「味の探求をする」というだけの方法である。
味の再現もなにもあったものではない。
繰返すが、私にとっての麻婆豆腐の調理とは、常に「味の探求」なのである。毎回同じ味になる訳がない。しかし似た味にはなる。
即ち「理想の味」を求め続けているのだ。

私にとっての麻婆豆腐作りとは「毎回1から、理想の味を探求するもの」である。
故に本記事のタイトルも「1から作る麻婆豆腐の作り方」とした。
つまり、一般的な「レシピ」はここにはないも同然である。

本記事を読んで興味があれば、是非挑戦してみて欲しい。きっと私が作った味と同じにはならないはずである。
何故なら、この作り方で行えば必ず「作り手にとっての理想の味を探求した結果の味」になるからである。それがうまいかまずいかもまた、作り手次第となる。
無難にうまいレシピを知りたければ、料理本や他のレシピサイトを見た方が良い。それでも尚「挑戦」し「追求」する場合、この「作り方」は姿勢となり指標となるだろう。
調理の結果は作り手に託される。
しかし、おそらくは楽しい時間を過ごす事が出来るだろう。理想を追い求める時間とは、夢中になれる時間なのである。

ただし、安易に人に食べさせてはならない。
この方法で味は保証されないからだ。これに関しては検討を祈るのみである。


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