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次、停まります②


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———「お客さん、聞こえますか?...すみません、終点なんで、降りてもらえませんかねー。」

運転手さんに体を揺すられ起きると、もう終点だった。

「すみません!」

 急いで降車したはいいが、ここがどこだかわからない。出発するバスを呆然と眺めることしかできなかった。周りを見渡すと、トタンの屋根や土壁の家屋が多く連ねる、いわゆる下町の住宅街のようだ。場所を確認するためにスマホの地図を開くも、何故か電波が悪くつながらない。

「あ、そうだ、会社に連絡……!……どうしよう、なんで繋がらないの!?」

 会社に電話したくともつながらない。住宅街で目の前に何本もの電柱があるのに電波が通じないなんて、そんなはずはない。おそらく、スマホが壊れてしまったのだろう。

「そんな、急に無断欠勤なんて……どうしよう……」

今頃私の家には職場からの電話が鬼のようにかかってきていることだろう。しかし、こんな状態では職場に連絡することもできない。そもそも、ここがどこかもわからないのでまずは現在地の確認を急ぐことにした。

「…バス停看板を見れば、場所と次の便がわかるから、最悪会社には行ける。そもそも都市からでるようなバスではないから、30分に一本は必ず来るはず」
 しかし、バス停看板はどこにも見当たらず、果たしてここが本当に終点だったのだろうかすらもわからない。終点ではないところで降ろされたのだろうか?それについては、後で苦情を言うことにしよう。しかし、この時私は何とも言えない不思議な気持ちになった。違和感を感じつつも、まずは周りに人影や交番、店がないかを探し歩いてみることにした。

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 かれこれ20分ほど歩いたが、なんとも言えぬ違和感が頭から離れない。電柱に近づくと、住所が書いてあるのが見えたが、文字化けしているような読めない文字が書いてあり、一瞬背筋が凍り付いた。個人店のようなものは何軒か見つけたが、全部シャッターでしまっていた。民家のインターホンを鳴らしても返事はなかった。試しに、玄関の戸を開けようとすると、まるで空間に張り付いたようにびくともせず、気味が悪くなってその場を離れた。思えば、日中にも関わらず私の足音しか聞こえない、物音一つさえしない。そして、20分ほど歩いているというのに全く人に会わないのに、なぜか後ろから視線を感じるのだ。

「もしかして、ここは私のいる世界ではないのではないか……?」

 考えたくもないが、ここにきてはダメだと本能が言っているのがわかる。私は、怖くなって走り出した。


 


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どれくらい走っただろうか。息を切らして走り続け、気づけば、私は林の中に入ってきてしまった。そして、日は随分と傾き、空はすっかり茜色になっていた。

「え?そんなすぐに夜になる……?どうしよう、寝るところは、、、。結局ここがどこだかもわからないし、会社も、、、。家に帰らなきゃいけないのに、、、。」

 ———その時、誰かが私の腕をつかんだ。


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