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英雄とは何か

私は勇者だ。
今、人間を苦しめ続けた魔族の王、魔王と雌雄を決するための戦いに臨んでいる。

ここまでくる間、多くの困難を潜り抜けてきた。

ある時は、村を襲った魔物たちの巣窟へ挑み、激戦の末、彼らを駆逐し、
またある時は、甘い言葉で操ろうとしていた魔物の計略を暴いて街を救ったりもした。

魔物に支配された街で立ち上がろうとした人々を支援し、革命を起こしたこともあった。

そして、今日ついに、魔王との直接対決までこぎつけた。

人間軍、魔王軍、多くの戦士たちが見守る中、私と魔王の、一騎討ちとなった。

相手は邪神の加護を持ってはいたが、私にも神から与えられしこの「伝説の剣」がある。

激戦の中、私は叫んでいた。
「悪は滅びるのだ!この人間の世界から出ていけ!」

渾身の一撃で、とうとう魔王は倒れた。
魔王の破れた姿を見た魔王軍たちは敗北を知ると、逃げまどい、そして、散っていった。

私は勝利し、悪を滅ぼすことができたのだ。
私は、一緒に戦ってくれた我が同志たちと大いに笑い、平和を謳歌した。
だが、決して気は緩めない。

悪は必ず復活するのだから。



私は魔王と呼ばれている。
私の前に、多くの私の仲間たちを屠ってきた人間の勇者がいる。

私は彼を討ち、仲間たちの復讐を果たさなければならない。

ある時勇者は、貧困にあえぎ必死に生きていた集落の同胞を子供も含め根絶やしにし、
またある時は、少ない食料を魔族と人間との間で奪い合わずに共生しようと持ちかけようとした私の仲間を、言いがかりをつけた上に、武力で制圧した。

我々が保護した人間の街を煽動し、無益な争いを引き起こされたこともある。

そして、今日ついに、私の前にあの憎き勇者が現れたのだ。

魔王軍、人間軍、多くの戦士たちが見守る中、私と勇者の、一騎討ちとなった。

彼は彼らが神とあがめる破壊神の「呪いの剣」を振りかざす。
ただ、私にも、私たちの神から守りの力が与えられている。

力は互角だったが、彼が私にささやいたことがある。
「お前たちは悪だ。俺たちがお前たちと共存することなど決してない」
やはり、彼らとは分かり合えないのか…
一瞬のたじろぎが命取りとなって、私は彼の前に倒れてしまう。

勝敗が決すると、勢いを増した人間軍たちによる魔族たちへの掃討戦が始まった。
指揮官を失った彼らは逃げまどい、そして、次々と討たれていった。

私たちは敗北し、生きる場所を失ってしまった。
暗く、寒く、世界の隅へ追いやられ、人間への報復を固く誓う。

私たちは必ず復活する。
彼らでは、この世から争いはなくせはしない。

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