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読書|今日も町の隅で

とある町に暮らす人々のお話。交わるようで交わらない、けれど、確かに同じ町でそれぞれが人生を歩んでいます。全10編の中でも「君を待つ」がお気に入りです。

時間ギリギリを生きている僕は、卒論の提出が間に合わず留年することになりました。側から見たら、可哀想に思えるかもしれませんが、僕にとってはツイていることだったのです。

卒論提出に間に合わなかった最終的要因は、予定していた電車に乗り遅れたこと。しかし、この電車では乗客1名が死亡する事故が起きました。

自分の定位置に座っていた人が亡くなった事実を知り、冷や汗とともに自分が助かったことに安堵します。

留年した僕は、大手企業の内定取り消し、2度とやりたくなかった就職活動の再来と人生が思わぬ方向に動いていきました。けれど、命があるだけ幸せなのです。

2度目の就職活動の末に、地元の小さなビール会社に勤めることが決まりました。そこで運命の相手である那美に出会います。

年上の彼女に惹かれていき、距離が縮まるのは時間の問題でした。ビール会社を就職先に選んだ理由を話していると、あの卒論の日が思わぬ形で繋がっていくのです。

ある日、那美が偶然選んだ電車が、僕の乗り損ねた電車でした。人身事故を目の前で見た彼女は電車に乗ることができなくなり、歩いて通えるビール会社に転職します。

同じ電車に乗り合わせたわけではないから、偶然何かが起きた、という感じでもない。何かは起きていない。あとで線がつながっただけだ。つながっていたことに気づいただけだ。その気づけたことが偶然だとは、言えるかもしれない。

P134

まさかまさかの繋がりで、二人は出会い、付き合い、結婚します。最後には、二人を待つ赤ちゃんが無事に産まれるところで物語の幕を閉じました。

人との出会いは、何が始まりかなんてわかりません。この地域に暮らしていなかったら、あの学校に通っていなかったら、あの日違う選択をしていたら。

そうやって小さな始まりの粒が線になって、誰かと出会うのです。一つひとつ追っていくとキリがないけれど、結局は生きていたから出会えたと思える。そんな尊い出会いをこれからも大切にしたいと思います。


前回の読書記録です。

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