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安田成美の歌唱力の毀誉褒貶

風の谷のナウシカ」作詞:松本隆、作曲:細野晴臣、編曲:萩田光雄

風の谷のナウシカ

84年1月25日リリースのデビュー曲、オリコン10位
映画の主題歌になるはずが、ボツにされ、作品の中では流れない、言い訳がましいシンボルテーマソングという扱い(これ以前にこのような扱いを受けた曲があったのかわからないが、これ以降作品中には流れないイメージソングなるものが定着した)となった苦肉の名曲、細野サンはいまだに使われなかった理由を聞いていないとのこと、色々な説はあるにしても、宮崎駿(監督)と高畑勲(プロデューサー)が気に入らなかったから、としかいいようがないだろう、宮崎駿と高畑勲のどちらかが気に入れば使われていた可能性もあるが、おそらく2人共気に入らず、事情はどうあれ人格的に妥協せず、頑なに拒否したことは想像に難くない、ただこの時点ではジブリというブランドもなく、映画がヒットするかどうかもわからない、当時の宮崎駿の一般的な知名度を考えれば、力関係的に徳間から最後にこれを流せと条件つけられてもおかしくはないが(いわゆる大人の事情)、映画は監督のものである、という大義名分が尊重された結果となった

その宮崎駿と高畑勲が喰いつかない、松本隆と細野晴臣のはっぴいえんどコンビ(またの名を「風をあつめて」コンビ)が何故起用されたかの理由は簡単で、ナウシカの音楽制作を徳間書店の系列会社・徳間ジャパンがを担当しており、そこのプロデューサー・三浦光紀が、はっぴいえんど『風街ろまん』(そしてラストアルバム『HAPPYEND』、さらに『HOSONO HOUSE』も)を手掛けた人物なので、まさに「風の谷」の「風」であるならば、徳間サイドから考えて、映画音楽を細野晴臣(YMOを散開したばかりの)が手掛け、松本隆と主題歌を作って(松田聖子のような)ヒットを狙うのが話題性からいっても当然の流れなのだが、これを宮崎高畑コンビに御破算にされる、徳間書店>徳間ジャパンということも関係してるのかもしれない

「トロピカル・ミステリー」作詞:松本隆、作曲:大村雅朗、編曲:萩田光雄

トロピカル・ミステリー

84年4月25日リリース
デビュー曲「風の谷のナウシカ」から3ヶ月後にリリースされたセカンドシングルは初主演映画『トロピカルミステリー青春共和国 』の主題歌、このような80年代B級映画を現在観ようと思ってもTSUTAYAになかったりして難しかったりする(DVD化されてたとしても)

Wikipediaみてわかったのだが、てっきりナウシカガールオーディションで芸能界デビューしたと思いきや、その前の81年に芸能界入りしてCMやドラマなどの出演歴はあって、オーディションを受けたのは事実だろうが、既に素人じゃなかったわけである、業界の仕組みを知らない一般人はついついオーディションというものは100パーセント応募してきた素人の中から選ばれる(公称7611人)と思ってしまうわけだが、そういうことではない、となると募集広告にあった「グランプリ・契約金300万円」「スカウトマン賞金100万円」は全て事務所に入るのだろう、これもついつい素人は本人に丸々入ると思ってしまうわけだが、グランプリに選ばれた時点で安田成美は事務所に所属してるタレントなので、そんなことはないのであろう、ナウシカの3ヶ月後に主演映画が準備されていたのは、それで納得、「風の谷のナウシカ」が映画本編で流れなく、シンボルテーマソングというわけがわからないものに(当時としては)なってもノープロブレム、とにかく84年は安田成美を売り出す計画がしっかりと立てられていた

ナウシカガール募集広告

ということで、このシングルと同時発売でファーストアルバム『安田成美』をリリース、シングル「風の谷のナウシカ」とこの「トロピカルミステリー」のAB面計4曲全て収録されているので(若干ミックスが違うらしいが)、アルバムを買う人は「トロピカルミステリー」を買う必要は全くない、いや、全くないかどうかはファンの熱意次第だが(映画主題歌に加えて本人出演のCM「花王ソフィーナ」にも使われていたようだがヒットしなかったようで)、兎に角アルバム10曲中4曲が既発シングル曲ということで、残り6曲は高橋幸宏がプロデュース、これまた勝手な憶測だが、本来アルバムプロデュースは細野晴臣の予定ではなかったのか? 映画のテーマ曲に使われなかったから、やる気なくなって幸宏に投げたのでは?なんて勝手なことを想像してしまうのだが...

「透明なオレンジ」作詞:松本隆、作曲:南佳孝、編曲:船山基紀

透明なオレンジ

84年7月25日リリース、サードシングル
電電公社からNTTになる前年のオレンジラインって何?ってことで後のダイヤルQ2的なものかなと想像するも、単なるお客様窓口サービスだそうで(とはいえYouTubeでCMを見たら何のサービスか分からない内容)、今では当たり前且つフリーダイヤルだったりもしますが、当時としては窓口作っただけでオオゴトだったのか、これからはお前らの話も聞くから、という御上から民営化への助走

ここで歌手時代のリリース歴をおさらい、シングル5枚(+CDシングル1枚)、アルバム2枚、ベスト盤2枚、現在高橋幸宏プロデュースのファーストアルバムと大貫妙子プロデュースのセカンドアルバムがサブスクで聴けるが、このシングルはアルバム未収録曲のため聴けない、今まではCD化されてるかが問題であったが、これからはサブスクで聴けるかどうかが問題、日本のレコード会社はあらゆる音源の解禁に本気で取り組んでほしいところ

「銀色のハーモニカ」作詞:松本隆、作曲:細野晴臣、編曲:細野晴臣、萩田光雄

銀色のハーモニカ

84年10月25日リリース
兎に角、映画の主題歌に使われようが使われなかろうが、そもそもナウシカガールでデビューしたわけではなく、その前にドラマやCMでタレント活動はしており、ここで一気に勝負をかけるかの如く売り出すことはもう決まっており(なのでナウシカオーディションも多分出来レース)、1984年のスケジュールはビッチリだ、1月のファーストシングル「風の谷のナウシカ」から3ヶ月ごとにシングル(翌年まで5枚続く)、4月にファーストアルバム、アルバム1枚しか出してないのに11月には早くもベスト盤的な『全曲集』、主演映画『トロピカル・ミステリー/青春共和国』公開、写真集「銀色のハーモニカ」他刊行、CM出演etc、あらゆるメディアに投資して、ゴリ押しとはこういうことだ、このくらいたたみかけないとダメなんだ芸能界は、それでやっと名前を覚えてもらえる、その代わり1985年は金かけない、キッパリ1年限定、もう歌がヘタだのなんだのはどうでもいいだろう、徳間ジャパンっていうかジャパンレコードは太田貴子他、今でいうアニソン系に力を入れていたので、それらが一同に会するイベントなどはあったようだ(そのライブ盤も存在するようだが未聴)

松本先生も相当に気に入ってたようで、シングル5枚AB面全ての作詞を担当、と言いたいところだが、5枚目のB面は力尽き、結果4枚半を作詞、しかしこれだけシングルを連続で手掛けたのは太田裕美、松田聖子、あと誰かいましたっけ?

両面共に隠れた名曲、「銀色のハーモニカ」「風の谷のナウシカ」が不完全燃焼となりつつ、シングル2枚挟んで再び細野晴臣が手掛けた同時期の安野とも子でも試みているマーティンデニー風ジャングルサウンドを取り入れたナンバー、B面「悪戯な小鳥」は大村雅朗が手掛ける少なくとも制作サイドは誰も歌をヘタだとは思っていない隠れた名曲、だから惜しみなくこんなメロディをぶつける的な唯一無二の個性(主に浮遊感)を最大限に生かしたナンバー、1985年5月3日に九段会館で行われた希少なコンサートのラストソング

「サマー・プリンセス」作詞:松本隆、作曲:林哲司、編曲:大村雅朗

サマー・プリンセス

85年4月25日リリース
1984年の1月から始まった安田成美売り出しプロジェクト、「風の谷のナウシカ」はオリコン最高10位ということで当時『ザ・ベストテン』ではランキング内ではなくスポットライトで歌われた記憶、その生放送での歌唱が伝説となり、その歌唱力が定説となる(主に「風の谷のナウ〜」の「ナウ〜」の部分)、それにもメゲず、計画通り3ヶ月おきにシングルをリリースし続け、この5枚目のシングルでもって一旦音楽活動は休止になります

A面「サマープリンセス」はサマーで4月発売ということはどこかの夏のキャンペーン(夏キャン)狙い、CMソング狙いだった可能性もなきにしもあらず、曲調はこの頃の林哲司作品ということで菊池桃子を連想させます

これまでのシングル全ての作詞を手掛けられた松本先生も力尽きたか、B面は無理〜となりまして、はたまた予算の関係か、他の誰かに頼んで新曲作るのも無理〜となりまして、じゃーアルバムからのカットだ、ということで選ばれたのが「Sueはおちゃめなパン屋さん」、既に1年前に出たアルバムからシングルに収録されること自体が珍しいと思うのですが、30年後に7インチを集めている人間にとっては嬉しい誤算、作詞鈴木博文/作曲鈴木慶一/編曲高橋幸宏、この3者のうち2者の組み合わせはよくあるのですが、この3人の合作は珍しいかと、多分アルバム(幸宏プロデュース)曲の中でも人気だったので選ばれたのだと思います

歌唱力について

YouTubeで「風の谷のナウシカ」を観るとコメント欄が大荒れというか賛否両論(=毀誉褒貶)になっていたりしますが(「ザ・ベストテン」に出演した際の動画、現在削除)、それほど歌に関しては皆さんウルサイと、自分は音楽はわからないけれど、楽器のことはわからないけど、とか言いつつ、歌のウマイヘタだけは遠慮なく物申す、または無自覚に言ってしまう、専門家でなくとも各々の中に判断基準がある、または歌はこうあるべきだという固定観念がある、素人でも歌に対する耳(審査力)だけは肥えている、という印象があります、そうでなくても音楽はウマイ/ヘタ、いい/悪い、好き/嫌いという線引きが曖昧でゴッチャになりやすいから難しい問題です、数々の風の谷のナウシカのカヴァーで歌がうまいと言われている人のもあるかと思いますが、じゃー安田成美を超えられるものがあるかといえばそうでもないだろうと、ピッチやリズムは良くてもつまらない歌はたくさんあり、うまいだけに(あるいはそこそこ、特別ウマくもヘタでもないを含む)本人もスタッフも何故売れないのか頭を抱えたまま消えるケースの方が実は世の中多いのではないでしょうか?
あるいはこの人の歌はウマイしいいと思うけど好きじゃない(レコード買うかと言われたら買わない)、みたいなケースもいくらでもあると思うし、逆を言えばヘタだし歌としてはダメだと思うけど何故かひかれるものがある(だからレコードを買ってしまう)、というケースもあるかと思いますが、この後者を一切認めず、ヘタはヘタっていうことでバッサリっていう方々が一定数おられるのもわかります、いわゆるひとつの常識としてハイわかりましたーって流すだけですが、松本隆と細野晴臣と萩田光雄が安田成美の歌声を評価していることは事実なのであります

で、その僅かな音楽活動の中で、伝説の歌唱を実際生で聴いたことある方は少ないかと思いますが(シングル「サマープリンセス」がリリースされた頃に九段会館にてコンサートが開催された模様)、『松本隆・作詞活動45周年記念コンサート<風街レジェンド2015>』にて自分は生歌を体験出来、風の谷に堕ちてしまいました

そして2023年、音楽活動を再開したいと細野晴臣に懇願、表敬訪問

主題歌としっかり書いてあるので、最初はそのつもりだった証拠

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