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《短編》名前を呼んで

「笠原優奈」
自販機の前で不意にフルネームを呼ばれて思わず振り返ると、同じ営業部の先輩の瀬木幸太だった。

「あの、、なぜフルネームなんですか?」
「いや、いつもと違う風を入れたくて」
「入れんでいいですから」

私はいつもの缶コーヒーを買い、先輩はサイダーを買った。
先輩とは軽口をきける仲だけど、一応わきまえる所はわきまえる分別はあるつもりだ。
それにしたって、フルネームはいきなり距離を取り過ぎじゃないだろうか。

「名前か名字、どっちかで頼みます先輩」
「お前こそいつも“先輩”か“瀬木さん”でつまらん」
いつもの屁理屈。
「それより今月売上がやばいですよ、うちの部署」
「だなぁ…お前話逸らすのうめえなぁ」
「痛み入ります」
「可愛くねぇな、優奈。…外回り行ってくるわ」

さり気なく先輩は名前を呼ぶと、そそくさとその場を離れた。

「お気をつけて、瀬木幸太」

先輩は振り返らずに手を上げて外回りへ出掛けていった。

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