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ii『おジャ魔女どれみ』全シリーズ一挙放送見て号泣し通した話。 どれみちゃん編 I


『おジャ魔女どれみドッカ~ン! 第40話 どれみと魔女をやめた魔女』

このエピソードは、当時小学生ながらにかすかな不安と怖さを体感しながら見ていた記憶がある。

●簡単にあらすじ
習い事や家の用事で忙しくする はづきやあいこたちに取り残されてしまうように、どれみはひとりMAHO堂へ向かおうとするが、気まぐれで寄道をしているとガラス工芸を作る一人の女性と出会う。

佐倉 未来(みらい)。
彼女は魔法を封印した魔女だった。年を取らない魔女であるがゆえ、正体がバレないよう各国を転々として美空町に引っ越してきたばかりだという。
すべてを受け入れ達観した雰囲気と少しの寂しさを帯びた彼女の雰囲気にどれみちゃんは惹かれ、悩みを打ち明ける。


ざっと、こんなかんじなのですが、
見直してみて、さらに無印シリーズから一気見したからか、いつもの溌剌としたどれみちゃんとは打って変わって誰にも見せない心の陰りがより引き立っていて、とても印象的だった。

未来さんとの不思議な出会いや吹きガラスの話をしてみんなにも会ってもらいたいと言うが、やっぱりみんなは忙しくてまた後日。

家に帰ると、自分がうまくできなかったピアノを、母親に褒められながら楽しそうに弾くぽっぷちゃんの姿。

どれみちゃんのモヤモヤした気持ちがこちらにも伝わってくるような静かな音楽は、ますます迷宮にでも迷い込んでいくような気さえして、落ち着かない。

一体、どこに行っちゃうの?と問いたくなる。


未来さんにぽつりぽつりと悩みを話すどれみちゃんは、すっかり成長していて寂しそうな切ない表情をしている。
まわりのみんなは特技や好きなこと、さらには進路や進むべき道を決めているというのに、自分だけがぼんやりしていて、不安そうにこうつぶやく。


「あたしだけどうしたらいいかわからなくて。なんにも見えなくて」


ほおづえをついて思い悩む彼女に、未来さんはたっぷりと間をおいてこう言った。

「見えなくていいじゃん」

このセリフがとてもいい。
つい先日Twitterでも話題になっていたが、
未来さんを演じているのは女優の原田知世さんだ。
当時、エンドロールで母親が驚いていたことを覚えている。
その頃小学生でドラマと縁がなかったわたしは分からなかったが、今回改めて見て驚愕と納得の嵐だった。

だって、このエピソード、キャラクター、空気にマッチしすぎていたから。
ついでに記載すると、このエピソードの演出は細田守監督だ。
ラストのEDで明かされて腑に落ちた。

それほど、他の作品と一線を画する異彩を放つ一話だと思う。



未来さんは、投げやりでもなく諦めでもない柔らかい口調で、大人の魔女としての生き方を静かにどれみちゃんに伝える。
それを眉をかしげながら「わからない」と言うどれみちゃん。

「同じ人間といると色々不都合ができちゃうでしょ」

この言葉の意味が当時、分からなかった。どれみちゃんと一緒に「不都合?」と頭にハテナマークを飛ばしていたと思う。

同じ人間といると年を取らない魔女は気味悪がられてしまう。同時に萩尾望都さんの『ポーの一族』が彷彿とされるが、これは別に魔女や吸血鬼に限ってのことではないなと思った。

人間だって、同じ環境、仲間に囲まれ続けていると、きっとあんまりよくないんじゃないかと思う。
お互い分かりきっていて安心だし落ち着けるという良い面もあるけど、停滞しているとみることもできる。
新しさが見出しづらくなるのではないか。

それは少しもったいないし、つまらないように感じるのだ。
たまには外に出て、新しいものに触れて、また別の新しいものを生み出したり発見したりしたほうがより人間を楽しめる気がする。

苦悩を通り越した彼女は、ある意味潔く爽やかでさえある。そして一通の古い友人からのエアメールを読んで生き方を定めるのだ。


■選択するということ

どれみちゃんとのやりとりで印象的なセリフがあった。
吹きガラスの手ほどきを受け熱々のガラスをころがしながら、お皿をつくるのかグラスをつくるのか聞かれるのだ。

「あなたどうしたい?」

”未来”さんから「どうしたい?」と聞かれる。
さらりと「未来」から選択を迫られる。

なんて、秀逸なんだ……。
白目むきそうになったわ。

そしてそのセリフを発する原田知世さんも素晴らしい。

成長していく過程で、誰もが通る道だ。
なんだったらわたしもまだこの未来の迷宮に迷い込んでいる最中だと思っている。

どれみちゃんは、未来さんからヴェネチア行きを誘われぼんやりと悩む。
学校では関先生が梶井基次郎の『檸檬』を朗読していた。
『檸檬』は、「えたいの知れない不吉な塊」を心に抱え思春期特有の焦燥感や不安を描いた作品で、どれみちゃんの心情を効果的に暗喩していた。

人生は選択の連続だと、かの劇作家シェイクスピアは言ったが、
まさにそれを客観的に触れることができた、大切なエピソードだった。



高等遊民になりたい………。