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文芸誌「すばる」(2019年3月号)に、島田雅彦の小説「君が異端だった頃」の最終回が載っています。

これまで、季節刊で連載されてきて、楽しみに読んできました。語りは二人称の「君」だけど、ほんとうは、赤裸々な告白小説(私小説)です。

30歳ごろまでの、恥ずかしいエピソードが満載です。とりわけ、高校時代を扱った第3部は、サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」顔負けの青春小説で、作家になる前の不良生活が暴露されています。

また、今回の最終回でも、妻がありながら、アメリカ人女性に溺れるおんな誑(たら)しぶりが発揮されて、読者を飽きさせません。

最終回の最後のほうで、語り手はこういっています。

「そう遠くない未来、自分の記憶も取り出せなくなってしまうので、その前にすでに時効を迎えた若かった頃の愚行、恥辱、過失の数々を文書化しておくことにした。

それにうってつけの形式は私小説をおいてほかにない。

正直者がバカを見るこの国で本当のことをいえば、異端扱いされるだろうが、それを恐れる者は小説家とはいえない」

島田は、これまで誰にも負けない諧謔と逆説を得意ワザにして、次々と、斬新なアイディアを小説化きたが、今回は、私小説という日本近代文学の王道に挑戦して、見事にやってのけたと思います。

2月26日『読売新聞』の「文芸月評」には待田普哉氏の評が載っています。

愛と性と文学への野心に取りつかれた男の青春が、あるせつなさとともに鮮やかな色を伴って映し出された」と、絶賛されています。

これからも、人に言えないような恥の人生を歩んで、面白い異端の小説を書き続けることでしょう。


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