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エンドロール職人

 エンドロールに背中を押されて、僕はレーサーになった。密度の高い学習の成果ですぐに素晴らしいタイムを弾き出した。だが、世界は思うほど甘くはなかった。次々に新しい奴に追い抜かれていく。僕には基本がないことは明らかだった。

 エンドロールに押し出されて私はスパイになった。ハイテク機器と母譲りのとんちを駆使して各国の機密情報を持ち帰った。ほとんどのミッションは問題なくクリアできたが、希に正体がばれて命を狙われることもあった。やりがいのある仕事ではあったが、他人に話せないことが不満だった。長いレースだった。疾走する内に幾度もコースは延長され変更された。国境を越えることも珍しいことではなかった。

 レースの途中で紛争に巻き込まれてしばしば足止めを食うこともあった。車を降りて現地で暮らす中で僕は様々な言語を学んだ。文法はわからなくても話すことはできる。チームは常に流動的で各土地土地で出会いと別れを繰り返した。メンテナンスを繰り返しながら、リタイヤしないために車はより強い形であることが求められた。大きな波を前にした時には船となり、戦火に包まれた時には、翼を広げた。
 自分がレーサーであることを忘れた瞬間、僕は最もレーサーであったかもしれない。チームが空中分解した時、僕はハンドルを放しマラソンランナーになった。エンドロールに押し出されて俺は殺し屋になった。

 俺のターゲットは、錆びついた自尊心。卒業文集の通りには進まない。「若者の未来に悪影響を与えるから」俺のような極端な例を持ち出して、奴らは映画をやり玉に挙げる。だが、いったい何が職業選択に関与するだろう。何かは何かに影響する。それは避けようがないじゃないか。だったらみんな消し去るか。
 依頼者からメッセージが届く。俺は気を引き締める。今度のターゲットは執拗な先入観のマークだ。失敗は許されない。俺はこれで最後にするつもりだ。俺のようなベクトルを持って、海賊や大泥棒になった奴もいるだろう。だが、そんなのは一過性のブームみたいなものだ。ハロウィンの仮装みたいなものだ。翌朝には何もかも脱ぎ捨てられて正気に返る。それよりももっと深く胸の奥に刻まれるものがある。例えばそれは不屈の闘志、例えばそれは忘れ得ぬ友情だ。俺はこれからそんなスクリーンを生み出すつもりだ。

 騙したり騙されたりの繰り返し。裏切りの街に疲れてスパイを離れることになった私はしばらくの間、パティシエを目指して働いていたけれど、情熱が途切れた折りに帰国して寿司を握り出しました。
 醤油とマグロに馴染んでからはしばらく寿司職人を続けていたけれど、突然それもやめてしまいました。私はあまり魚が好きではなかったから。
 今は実家に帰って野鳥の撮影を中心に暮らしています。記録的なランナーになどなれなかった。自分の足で走っていくことにも限界を覚え始めた。

 エンドロールに押し出されるように僕はドライバーになった。だけど、もうレーサーじゃない。主に東から西へ魚を運んでいる。先のことはわからない。今はお気に入りのラジオを聴くのが楽しみだ。


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