路上の言語〜スケートボード黎明期3 身体の記憶と精神の記憶

サーファーは足の裏の感覚に敏感だ。常に変化し続ける安定しない波を捉えサーフボードをコントロールするには、サーフボードを通して伝わる波の動きに的確に反応しなければならない。波の斜度に対してサーフボードの傾け方(前足の踏み込み)が甘いと波に乗れず波の上を素通りしてしまうし、踏み込みすぎると沈んでしまう。曲がるときは自転車と同じ要領で体重移動で進行方向を決定するのだが、サーフボードの進む方向とつま先~踵で荷重でコントロールする左右への進行方向がかみ合わないと板の上に乗っていられず落ちてしまう。

これらのことができるようになるには時間がかかる。ただ波に乗るだけであれば一日でできる人もいるだろうが、それは思いのままにコントロールできているとは言えない。そのようになるまでには度重なる練習が必要だ。何度も繰り返し波に乗ることで身体が適切な動きを記憶し、身体に馴染んだその記憶は習慣と呼ばれる。

習慣となった身体の記憶は、バランスを取る際にいちいち踏み込みが足りないからもっととか、背中側に曲がりたいから肩を開いてとか、そのようなことを考えず無意識のような状態でもサーフボードをコントロールすることを可能にさせる。

これらの身体の記憶はふたつと同じ波のこない海の上で非常に役に立つ。習慣という身体の記憶は現在の知覚に対し、類似の状況を見つけるや考えることもなく半ば自動的に適した行動を身構える礎となる。いちいち最初からその波に合わせて覚えなおさなくても良く、同じような波であれば応用が利くようになる。

記憶にはこのような習慣と呼ばれる身体の記憶ともうひとつ、精神の記憶がある。

精神の記憶とはn月n日になにがあったか、どんな波に乗ったかというような特定の出来事を思い出す記憶だ。

この特定の出来事を想いだせる精神の記憶のおかげで危険を回避することができるようになるが、それは「違い」に気付くことで初めて可能になる。違いに気づくとその違いに対して行動を起こそうとする。つまり知覚が

【身体の内に行動への新たな準備をつくり出す。】

(引用:アンリ・ベルクソン「物質と記憶」p.95)

スケートボードを始めた初日。初めての体験のことは誰でもよく覚えているものだ。横向きに動くという不思議な体験に感動する。

二日目。前日の余韻を残しつつ特殊な動きにもだんだんと慣れてくる。

三日目。ひたすら滑るのみ。初めての感動は少し薄れ、それとともに身体が横向きに動く動作に慣れ徐々に上達していく。

四日目。今までの動作、経験を踏まえさらに上達していく。

なぜ日を追うごとに上達していくのか。それは過去の記憶を思い出し何がよくてなにがダメだったのか、精神の記憶を頼りに反省し正しい動作を反復していくからだ。同じ事をやっていてはいつまでたってもできるようにはならない。できない中でできるようになるには、できない、という中から、できるようになるその一点を探さなくてはならない。その一点を探すことでやがて滑れるようになり、成功体験を反復することで習慣という身体の記憶になる。

精神の記憶は初めて滑ったときのような特別な記憶を保持することに重きを置くと同時に、数日目の徐々にできるようになっていく過程にあるひたすら繰り返している最中の、あまり重要ではなく大きな意味は持たない記憶を大事に保持するようなことはせず、現在知覚しているものと重要な記憶を照らし合わせ有益なものをつくりあげていくために働く。その働きとは、上述の「できるようになるその一点」、他とは違う有益なものをつくりあげるであろう点を探すことである。

精神の記憶は特定の記憶を覚えていることにより、現在の知覚が過去と何か違う点はあるのか、「差異」を気付かせる働きをする。

スケートボードに乗ったサーファーは路上を滑った。場所は車道や歩道、駐車場などたくさんの場所を滑った。サーフィンとスケートボードがいくら似ているとはいえ乗った瞬間からうまくは滑れないが、サーフィンをやったことがない人と比べれば早く滑れるようになる。サーファーはスケートボードに乗り、細長い板に横向きに乗るその動作がサーフィンと同じでありさらに体重移動で曲がるやり方が同じであることに気付き、サーフィンと同じ要領で乗る。

共通点としては踏み込みと体重移動で進行方向をコントロールする身体の使い方がある。サーフィンの身体の記憶がスケートボードとの類似点を認め半ば自動的に有効な体の動きをさせ、精神の記憶により二つの差異に気付きより早い上達を可能にさせるからだ。

サーファーの身体にあったサーフィンの習慣という記憶が、スケートボードと反応の同一性を見つけさせた。やがてサーファーの中にスケートボードの身体の記憶もでき上がり習慣となる。

その中で、足の裏の知覚の源泉である波に相当する「地形」にも「差異」があることに気づいた。

その「差異」を感じさせる地形こそが「バンク」であった。

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