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成功は部下の手柄、失敗は社長の責任

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、同社社長時代、自ら育成したリーダーが決定したことには、ほとんど反対をしなかったそうです。その結果、リーダーの判断が失敗につながることがあるものの、リーダーには、最後までやり通す経験を積んでもらうことで、自立心が養われ、リーダーとしてのスキルが高まると、迫さんは考えていたようです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長だったとき、権限委譲を進めるにあたって、リーダー候補自身だけでマネジメントスキルを学ばせるのではなく、迫さんが、リーダー候補と行動を共にして、リーダーとしての動き方や判断の仕方を実地に学んでもらうことで、適切なマネジメントスキルを身につけてもらうようにしていたということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、育成が終わったリーダーに対しては、極力、任せることに徹していたということを述べておられます。「二人三脚を卒業したリーダーが決断したことに、僕が反対することは、ほとんどない。それは、新サービスの開発でもそうだし、プライシング(値付け)、人事も同じだ。特に、誰をどの店舗に異動させ、誰を昇格させるかといった現場の人事は承認すら不要で、完全にノータッチ、すべて任せている。

そして、任せたことが成功したら、そのすばらしい意思決定を最大限に讃え、決して『オレの手柄』にはしない。では、万一、失敗したら、任せた僕が、100%責任を取り、失敗した本人を絶対に責めることはない。言うまでもないが、降格や減給などをチラつかせることも決してしない。僕は、特に、初めて大きな仕事を任されて盛り上がっている社員には、『大丈夫かな?』と思っても、『うるさい上司』にならないよう、なるべく否定的なことは言わないようにしている。

ただ、失敗した時に、すかさずフォローできるよう、準備だけはしておく。(中略)なぜ、否定的なことを言わないかというと、僕にはない現場感覚によって、うまくいく可能性があることと、なにより、『自分で考えたことを自分で計画して自分で実行する』という一連の経験を積んで欲しいからだ」(156ページ)

迫さんが自ら育成したリーダーとはいえ、そのリーダーが決断したことに反対せず、一方で、失敗しても迫さんが責任を取るという方針は、少し無謀なのではないかと考える方もいるのではないかと思います。私も、権限委譲そのもには賛成ですが、失敗はなるべく避けるよう、助言する方がよいのではないかと考えていました。でも、迫さんは、「自分で考えたことを自分で計画して自分で実行するという、一連の経験を積んで欲しい」と述べておられます。

すなわち、成功することよりも、結果はどうであれ、自分の決定したことをやり通す経験を積んでもらうことを最優先しているようです。その結果、失敗しても迫さんは許容すると考えているのであり、失敗を直接的に許容しているわけではないと言えるでしょう。逆に、失敗しないことを最優先にすれば、リーダーは、自分自身の価値観で判断をしなくなり、経営者の顔色を見ながら、失敗しないことを最優先するでしょう。

そうなってしまうと、リーダーは、「意思決定」をしなくなり、真のリーダーが育成できないことになってしまいます。そこで、繰り返しになりますが、迫さんは、まず、結果はどうであれ、自分の決断を最後まで実践してもらうことを優先したのであり、これは、真に自立したリーダーを育成するためには欠かせない方針です。そして、そのようなリーダーがたくさん活躍する会社は、そのリーダーの育成の過程で起きた失敗を十分に補える以上の成功を手にできるのだと思います。

2023/10/19 No.2500

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