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組織開発で適応課題に取り組む

[要旨]

組織開発の対象は、課題を氷山にたとえると、海面の上に出ていて目に見えるコンテント、海面からすぐ下のタスク・プロセス、海面から深い部分にあるメンテナンス・プロセスに分かれます。コンテント、及び、タスク・プロセスの一部は、既存の方法で解決できますが、メンテナンス・プロセスは既存の方法では解決できません。そこで、組織開発によってメンテナンス・プロセスを解決できるようにすることが、業績を高める鍵になります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、コンサルタントの早瀬信さんたち3人の著書、「いちばんやさしい『組織開発』のはじめ方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、VUCAの時代は、かつてのような確率の高い「勝ち筋」が見出しにくくなり、業績が思うように伸びず、また、コロナ禍や働き方改革の進展が示すように、職場の環境、メンバーの構成、働き方そのものも大きく変わってきていることから、ビジネスにおいて、かつてより、組織開発に取り組む必要性が高まっているということについて説明しました。

これに続いて、早瀬さんは、組織開発の進め方について述べておられます。「組織開発にまつわる課題には様々なものがあり、解決の手法も多数です。組織開発が、あらゆる課題をものの見事に解決する、というわけではありません。人材育成の手法によって能力を開発し、マンパワーを上げることで、強い組織になることもあります。では、組織開発が得意とするのは何か。それは(中略)、既存の手法での解決が難しい『適応課題』についてです。

つまり、人と人との関係性の変化を通して、違和感のあるプロセスを組織全体で見直すことだと言えます。組織開発の始め方として有用な視点については(中略)、氷山の絵で説明されることが一般的です。組織に起こっている事象は、氷山の極一部で、実は、その大部分は産みの中に隠れて見えません。組織開発では、水面上に現れている事象をコンテント、隠れて見えない事象をプロセスと呼びます。コンテントもさることながら、肝心なのは、その下に隠れて見えていない巨大なかたまり、すなわちプロセスです。組織開発は、この部分に目を向けます。

プロセスの中でも、メンバー間の目標の共有や手順、仕事の段取りなど、業務に直結する、あるいは比較的近いものを、タスク・プロセスと呼びます。どれも見えにくくはありますが、技術的に解決が可能な課題もあります。さらに深い部分、職場の雰囲気や組織風土、メンバーのモチベーション、互いの関係性などは、そもそも目に見えませんし、技術的な解決は難しい。この部分をメンテナンス・プロセスと呼びます。(中略)組織開発は、このタスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスの両方を見直していく活動です」(53ページ)

早瀬さんのご説明の中に、「適応課題」(adaptive challenge)という言葉が出てきますが、これは、「既存の方法で一般的に解決ができない複雑で困難な問題」を指します。適応課題に対し、既存の方法で解決できる問題のことを「技術的問題」(technical problem)と言います。また、タスク・プロセスの具体的なものには、早瀬さんによれば、「意思決定のされ方」、「目標の共有」、「役割分担」、「手順や仕事の段取り」などがあるそうです。

一方、メンテナンス・プロセスの具体的なものには、「職場の雰囲気や組織風土」、「メンバーのモチベーション」、「メンバー同士の関係性」などがあるそうです。そして、かつては、経営環境があまり複雑でなかったことから、技術的問題を解決することに主眼が置かれていました。しかし、経営環境が複雑な現在は、適応課題への対処に注力しなければならなくなっています。そこで、組織開発によって、適応課題を解決していくわけですが、適応課題の対象である、タスク・プロセスや、メンテナンス・プロセスは、「氷山」の下にある見えにくい部分にあります。

すなわち、見えにくい課題であるからこそ、解決も難しいということになります。でも、前述のように、現在は、適応課題を解決できなければ競争に勝つことができない時代になっています。これは、結局のところ、現在は経営の難易度が高いということになるわけですが、まだ、氷山の海面から上に出ている部分にばかり目を向けているだけの経営者も少なくないように思います。したがって、業績を改善したいと考えている経営者の方は、解決が難しいとはいえ、氷山の海面の下に隠れている部分に目を向けることから着手することが鍵になると、私は考えています。

2024/3/12 No.2645

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