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技術屋の仕事は生産コストを下げること

[要旨]

稲盛和夫さんは、京セラを立ち上げたころから、「新しい技術開発を行うのが技術屋の仕事ではなく、どうやって生産コストを下げるかを考えることこそ、技術屋の仕事だ」と、従業員の方に伝えてきたそうです。これは、「象牙の塔にこもったような仕事」だけをしていると、適切な値決めをすることができなくなり、事業がうまくいかなるからと考えていたからだそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小売業で、競合上、安売りをする店はありますが、業績のよい会社は、仕入れ値を低くすることで、自社の粗利率を変えずに、低価格販売を実現しているので、低価格販売をするときとは、粗利率を下げることで実現するのではなく、仕入値や経費を低くする仕組みを構築し、粗利率を変えずに販売しなければならないと、稲盛さんは考えているということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、稲盛さんのような、いわゆる「技術屋」であっても、生産コストを下げることを考えなければならないということを述べておられます。

「私は、会社を始めてしばらくしたころから、『新しい技術開発を行うのが技術屋の仕事だと思いがちだが、そうではない。どうやって生産コストを下げるかを考えることこそ、技術屋の仕事なのだ』と考えるようになりました。それも、同じ材料を使って、とにかく少しでも安くつくろうというやり方ではなく、根本から手法を変える。今まで100円の原材料費でつくっていたものを、5円でつくれないだろうかというくらい、根本から問い直し、その方法を見つけ出す、これが技術屋なのです。ただ大発明、大発見をするのが技術屋ではない。そのように技術屋の役割を位置づけたわけです。

ですから、『象牙の塔にこもったような技術屋は要らない』と言って、うちの技術陣にハッパをかけ続けてきました。薄利で商売を始め、売上が増えてきたにもかかわらず、悪戦苦闘している、という方がいます。やはりそれは、値決めがおかしいのです。だからと言って、同業他社もあるのに、商品の値段を安易に上げることはできませんから、どうしても十分なマージンが取れないなら、既存の商品にこだわる必要はないのかもしれません。そのときは、新しい製品を開発し、それで利益を確保していくようにすればいいのです」(478ページ)

稲盛さんのご指摘する、「どうやって生産コストを下げるかを考えることこそ、技術屋の仕事」というご指摘は、私もその通りだと思います。私は、「技術屋」の経験がないので、あまり根拠を示すことはできないのですが、製品の評価は、最終的に顧客が評価します。そこで、「技術屋」が、どんなによい製品を製造したと考えても、もし、その製品と価格が見合わないと顧客が感じたら、顧客はその製品を購入しようとしません。したがって、「技術屋」であっても、自分だけの価値基準だけでなく、顧客の視点からも評価されるかどうかを念頭におかなければならないということ、すなわち、部分最適ではなく、全体最適で考えなければならないということを、稲盛さんはご指摘しておられるのだと思います。

ちなみに、私が学生時代に、専攻していた会計学の教授から、「会計を学ぶには、会計だけを学んでいてはいけない。事業活動は、『ひと・もの・かね』の総合的な活動なので、『かね』だけはでなく、『ひと』や『もの』について理解していなければ、『かね』の本当の動きを理解できない」と指導されました。そこで、私は、事業活動を把握しようとするときは、会計的なアプローチだけでなく、購買、生産、販売、労務といった、会計以外の活動も踏まえ、多面的に把握するようにしています。

そして、そういったアプローチをすることで、より的確な改善方法を見つけることができるようになったと考えています。中小企業経営者の中には、技術分野が得意な方、製造分野が得意な方、販売分野が得意な方など、様々な得意分野をお持ちの方がおられます。そして、得意分野を活かして事業活動に臨むことは重要ですが、得意分野だけでなく、他の分野にも目をむけることで、より効率的な事業活動ができるようになるのではないでしょうか?むしろ、21世紀の経営者には、そのような、総合的な視点を持つ経営者が望まれていると、私は考えています。

2023/11/17 No.2529

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