知ってはいけない_Fotor

アメリカの属国として生きる国で〜『知ってはいけない』

◆矢部宏治著『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』
出版社:講談社
発売時期:2017年8月

戦後日本が何かにつけ米国に追従してきたことに関してはこれまで多くの議論がなされてきました。本書は簡潔に言えば「これまで精神面から語られることの多かった『対米従属』の問題を、軍事面での法的な構造から、論理的に説明」したものです。「軍事面での法的な構造」とは具体的に日米安全保障条約、日米地位協定、さらには日米合同委員会における種々の密約を指します。日米合同委員会は日本の官僚と米国の軍人から成る非公開の集まりです。

日本の首都圏上空は米軍に支配されている。米軍兵士は日本全土において治外法権を有している。……日本人の誇りだとか日本スゴイ言説が喧伝される一方で、およそ独立国家とは思えない状態が日本では今日まで維持されてきました。といってもその多くは明文化されていません。上に記した日米合同委員会で成立した密約が根拠になっているからです。
日米合同委員会とは「米軍が「戦後日本」において、占領期の特権をそのまま持ち続けるためのリモコン装置」(吉田敏浩)なのです。

日本は形式的には1952年にサンフランシスコ講和条約によって独立を果たし、国際社会に復帰したということになっています。しかし実態は米国の隷従状態に置かれたままだったのです。

矢部が着目するのは朝鮮戦争です。戦後日本のあり方を決定づけたのは朝鮮戦争である、と。この戦争を契機に日本で警察予備隊が発足し保安隊を経て自衛隊に発展していったことは周知の事実でしょう。
旧安保条約や行政協定(現在の地位協定)という極端な不平等条約は、朝鮮戦争で苦境に立った米軍が日本に戦争協力させるために、自分で条文を書いた取り決めでした。

それにしても冷静に考えれば、これはかなりの荒業です。そもそもポツダム宣言には 、占領の目的が達成されたら 「占領軍はただちに撤退する 」と明確に書かれています。一方、米軍は日本に基地を置き続ける保証がない限り、日本を独立させることには反対の立場でした。

国務省顧問に就任したばかりのジョン・フォスター・ダレスは、国連憲章43条と106条を持ち出してその問題を解決します。すなわち「国連加盟国は国連軍に基地を提供する義務を持つ」という43条、国連軍ができるまでの間、安保理の常任理事国が必要な軍事行動を国連に代わって行うことができるという106条を拡大解釈して、日本に米軍基地を置き続けることを可能にしたのです。

かくして突然の朝鮮戦争によって生まれた「占領下での米軍への戦争協力体制」がダレスの法的トリックによって、その後、60年以上も固定し続けてしまうことになります。

私たち日本人が生きていたのは、実は「戦後レジーム」ではなく、「朝鮮戦争レジーム」だった。そしてそれは「占領体制」の継続よりもさらに悪い、「占領下の戦時体制」または「占領下の戦争協力体制」の継続だったのだ。(p249)

また、この話の前段で丸山眞男の憲法読解に対して根本的に批判するくだりもなかなか切れ味鋭く読み応え充分です。
丸山は「平和を愛する諸国民の公正と信義」を抽象的に理解しようとしました。しかしこれは「大西洋憲章」や「ダンバートン・オークス提案」、「国連憲章」の条文を読めばたちどころに分かるように、第二次世界大戦に勝利した連合国を指していることは明らかだといいます。

憲法九条や前文を世界思想史的な文脈から読み解こうとする態度は丸山以後の研究者にもみられるものですが、まずは矢部のように条文を具体的な国際政治の流れに沿ってリテラルに読み込むことが前提として不可欠でしょう。

ところで、タイトルの「知ってはいけない」事実とは、本書に書かれた事実を知らないほうが、あと10年ほどは心穏やかに暮らしていけるはず、という含意がこめられています。つまりかなりの高齢者に向けたメッセージです。逆にいうと若者はそうはいかないということ。これから先10年以上生きていかなくてはならないのですから。日本人としてマトモに生きていきたい。そう思うならばやはり本書が抉り出す事実は知っておいたほうがいい。いや知るべきだと私は思います。 

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吉本 俊二

コラムニスト、ライター。大阪府岸和田市在住。時事問題全般、メディア論、書籍、映画・アートetc. 著書:『一目でわかる学校系列と教育業地図』『一目でわかる商品・ブランド地図』(日本実業出版社)、『東西学』(経営書院)、『大阪的基準』(東洋経済新報社)など。

本読みの記録(2017)

ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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