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漂流する首

ある日、東京湾で首が目撃された。最初に見つけたのは漁師だった。驚く漁師に向かって、首はニコリと微笑んだ。

数日後、今度は多摩川で首が目撃された。首は多摩川が気に入ったようで、ほぼ毎日、人目につく場所に現れた。付近の住民が首を見に集まると、首は住民に向かってニコリと微笑んた。

人に危害を加えるわけでもなく、どこか愛嬌があったので、首はすぐに人気者になった。「タマちゃん」以来のアイドルの出現に住民は盛り上がった。「クビちゃん」の愛称で親しまれ、クビちゃん饅頭やクビちゃんクッキー、クビちゃんTシャツなどが作られた。テレビでも取り上げられ、全国から見物客が訪れた。

一人の小学生がクビちゃんを捕まえようと考えた。まずは弱らせようと、クビちゃんに向かって石を投げつけた。石は当たらなかったが、クビちゃんは警戒して水に潜った。そしてそれ以来、クビちゃんは人前に姿を見せなかった。

数ヶ月後、アラスカのある小さな漁村で、網に首らしきものがかかっているのを漁師が見つけた。漁師は気持ち悪がってすぐに首を海に投げ捨てた。後で他の漁師に首のことを話したが、皆本当とも嘘とも分からず、適当に聞き流した。この首がクビちゃんだったのかどうかは分からない。


めかぶは飲み物です。