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おやじパンクス、恋をする。#220

 梶商事の社員たちが”頑張って”宣伝したおかげか、店の前には二十人くらいの客が既に集まっていた。

 皆スーツやジャケットを着てはいたが意外とチャラい感じで、中には髪を染めている奴もいたし、ロン毛の奴もいたし、女の子も結構多くて、既に酔ってんのかキャーキャー騒いでるお姉ちゃんもいて、要するに俺たちはあんまり目立たずにすんだ。

 他の客に紛れて受付もすんなり突破した。というか、もしかしたら俺らに気付いた社員もいたのかもしれねえが、葬式会場で佐島さんは俺たちにチラシを渡して、ぜひ来てくれって言ったんだよな。つまり、そもそも入店を断られる道理もなかったわけでさ。

 階段を下りて中に入ると、左側にはロッカーとトイレ、右側にはスタッフルームの扉があり、まっすぐ進むとフロアに出る。

 そこそこの箱って言っても、キャパは200人も入ればそこそこ、パンパンに入れて300ってとこか。前に涼介らのライブで来た時も、確か集客は120とか130とかそれくらいで、それでも「けっこう入ってた」みたいな印象だった。

 受付から渡されたドリンクチケットを手に、俺たちはゆっくりとフロアを見回した。アホみたいにもスモークが炊かれていて、誰が誰なのかよく分からねえ。

 一段高いところにあるDJブースでは、サングラスをかけた胡散臭い感じのおっさんDJが、なんつうか可もなく不可もなくって感じのハウスを流している。

 フロアを囲むように配置されたカウンターで、それぞれ飲みものを受け取った。やがてスモークが晴れてきたころには既にフロアはそこそこの賑わいを見せていて、俺たちは並んでカウンターに肘をつきながら一人一人の顔を確認していった。

 所々に梶商事の強面たち。だが、雄大の姿はなかった。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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