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おやじパンクス、恋をする。#032

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

「いやまあなくはねえだろうけど、だったらどっちかが海外に連れてっていきゃいい話じゃねえの?」と俺。「お手伝いを雇うにしたって、自分の傍にいたほうが安心だろうよ」

「ああ、そうか!」と突然涼介が大きな声を出す。

「なんだよ、驚かせるなよ」

「逆なんだよ多分、逆」

「なにがだよ、逆ってなんだよ」

「だから、彼女の親は外人でよ、ほら、ハーフっぽい顔立ちしてただろ。んで親の仕事で日本に来たんじゃねえか?」

 ん、んん? いやでも確かに、彼女は外人っぽい顔してる。親のどっちかが外人だって言われても、別に違和感はねえな。

「そうだとしても、結局のところ何で彼女が一人で住んでんのか、その理由が分かんねえだろ」とボンが突っ込んで、これまた確かになあと俺は思う。

 そんな風によく分かんねえ推理合戦をしているところに、おばちゃんが人数分のコーヒーを運んでやってきた。俺たちが横並びで座っていることに今気づいたみたいに、梅干しを食ったみたいな変な顔して俺たちを眺めていたが、結局は特に何も言わず、湯気の立つコーヒーを置いて下がっていった。

 俺たちがその、悪意を感じさせるくらいにチンチンなコーヒーを飲もうと、皆が黙ってふうふうと息を吹き掛けている時、タイミングを計ったように変化が訪れた。

 カーテンの隙間に彼女が現れたんだ。

 俺たちは息を飲んだ。いや、こんだけ離れてんだ、俺らが大爆笑していた所で彼女に聞こえるはずもねえんだが、何となく全員が硬直し、立ち上るコーヒーの薫りに咽そうになりながらも、その様子を食い入るように見つめた。

 彼女は部屋の奥の方、玄関のちょっと手前から現れた。俺は即座に、さっき彼女はどんな格好をしてたっけと思い出そうとした。というのも、何となく着ているものが違ってる気がしたんだ。

「おい」俺はコソコソ話をするみたいな小声で言った。

「なんだよ」隣の涼介も同じく小声で答えた。

「彼女、さっきと服装が違わねえか」

「服装? いや、同じだろ。なあ?」と首を伸ばしてボンに聞く。

「うーん、どうだったかな。同じだった気がするけどな」

「あ」とタカが呟いて、全員がそっちを向く。「髪型が違うんだよ、さっきは縛ってなかったろ」


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