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おやじパンクス、恋をする。#058

 って、実際のとこ、目の前でいろんな客から声をかけられているカズを見て、俺自身がそう考えていたんだった。おいカズ、てめえだけいい子になるつもりかよ、まともな社会人になるつもりかよって。

 なんでこんなことを考えてるんだろう。クソ、自分が嫌になる。

 自分と一緒にいない間も、カズの生活は続いている。

 カズだけじゃねえ、涼介もタカもボンも、そして、そう彼女だって、俺の知らない顔を、俺には見せない顔を、絶対に持っているはずなんだ。そんなの、当たり前じゃねえかよ。

 カズが餃子とバンバンジーを食い終わり、二本目の瓶ビールを調達してきた頃、俺はそんな自己嫌悪の中でガックリしてて、「なんだよ、どうしたよ」とカズに心配される有様だった。

 で、さらに情けねえことに、俺はそうやって思いつめると隠せねえ。愛想笑い一つできなくなって、どうしようもなくなっちまう。だから俺は、頭ん中にあるそのモヤモヤしたもんを、そのままカズに話した。五人組の話とか、客と話すカズを見て感じた、妙な不安とか。

 でも、それを聞いたカズの返事はシンプルで爽快だった。

「なにバカなこといってんだよ、いいから飲めよ」

 俺は笑った。

 そらそうだ。二日酔いでいま食った野菜炒めもそのまま吐きそうな気分だけど、飲んどけばいいよな。

 俺はカズの注いでくれたビールを一気に煽った。満腹の胃の中に、良い感じに冷えたビールが大波のごとくスプラッシュして気持ちがいい。気持ちがいい? いや、二日酔いで気持ちは悪いんだが、それが緩和されるような感覚がある。いわゆるあれだね、迎え酒ってやつ。

「で、愛しのハニーとはどうなったんだよ」

 カズがニヤニヤしながら聞いてきて、俺は二杯目のビールを吹き出しそうになる。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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