おやじパンクス、恋をする。#025
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
「で、どうすんだよ。これから」
ガードレールに座ったボンがタバコをふかし、さっきまでいた五階を見上げる。
「どうするったって、どうすんだよ」
俺もその隣に腰を下ろす。涼介は欠伸をして、ボリボリと頬を掻く。
「まあ、仕方ねえじゃねえか。戻ろうぜ、シックスナインで飲み直そう」
「まだ飲むのかよ」俺は呆れたように言う。ちなみにシックスナインってのは俺のやってるバーの名前だ。
「だって、他にやることねえじゃねえか。彼女だってほら、忙しいわけだし」
俺はいい加減トサカに来て、あのなあ、と言う。
「だいたいてめえが勝手なことすっからだぜ。三十年も会ってねえ女のとこに、しかも何の関係もねえてめえが何で押しかけて行くんだよバカ」
「なんだよ、ノリノリだったじゃねえかよ」とニヤニヤしながら答える涼介。「なあ?」とボンの方を向く。
「ああ、ノリノリだったな」ボンが煙を吐き出しながら言う。「あんなにノリノリなこいつは、初めて見たよ」
「しかも、なかなかの美人だったぜ」タカが笑顔で言う。
「同年代なんだろ、四十三? そう考えたらすげえよな。ハーフかなんかか?」と涼介。
「よかったじゃねえか、再婚相手が見つかってよ」
涼介の意地の悪い言葉に、俺は溜息をつく。
確かに、ノリノリだった。俺はノリノリだった。
だからこそこんなにへコんでるんだ。彼女とデートできなかったことに、俺はヘコんでる。
「まあいいじゃねえか、またねって言ってたし、日を改めてよ、そんで思う存分ズッコンバッコンしろよ」
クソ、何て言い草だ涼介め。こいつの弱みを握ったら、倍にしてお返ししてやる。
だが実際、涼介の言う通り、このままここにいたって何がどうなるわけでもねえ。早々に引き上げてヤケ酒コースでファイナルアンサーだ。
「じゃあ、行くか」
そう言って俺がガードレールから降りた時だ。
ぎゃははは、っていう品のない笑い声がどっかから近づいてきて、見れば、向かい側、つまりレストランの入ってるビルの前に黒い車が停まった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?