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おやじパンクス、恋をする。#023

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 俺はすっかり上機嫌になって、そうか、そもそも涼介のバカがいなけりゃこんな嬉しい気持ちにもなれなかったんだなと、仕方ねえ褒めてやるかみてえな気分で、後ろを振り返った。

 したら、気持ちの悪い革ジャンのオッサン達が、互いの肩をつつき合いながらクスクス笑ってやがる。うわあ気持ち悪い。

 つうかてめえら四十代だってのになんだその童貞の中学生みてえな反応。仲間の告白を遠くから見守るみてえな構図じゃねえか。

 「クソ、笑ってんじゃねえよテメエら」言いながら俺も下品なニヤけ顔になってくる。

 いや、そうだよな、わかってるよ、てめえらの魂胆はわかってる。俺を置いて消えるってんだろ。俺と彼女を二人きりにさせて、あわよくばくっつけちまおうって、そういう話だろ? いや、わかるわかる。だって俺が逆の立場ならそうするからな。

 で、この時の俺は、そういう展開もまんざらじゃねえなって思ってたんだ。いや、本当に彼女とどうにかなろうなんて考えてた訳じゃねえよさすがに。だけど、始まっただけで何もせず終わっちまったと思ってた友人関係だ、ここからもう一回、一からやり直せるなら、こんなに嬉しいことはねえ。

 俺が今朝、あのレストランのことを思い出さなかったら、それに、こいつらに彼女の話をしなかったら、そして涼介のバカがいなかったら、こうして顔を合わせることも二度となかったんだ。だからなんつうか、この空白の三十年を埋めるっていうかさ、彼女とどっかでお茶でもしながら話をするのもいいかもなと思い始めていたところだった。

 だからボンが「じゃ、後は若いもの同士で」とか寒いギャグ言って、涼介とタカの肩に手を置いてこの場を去ろうとしたとき、俺は「なんだよ、どこ行くんだよ」とか言いながら、よしよしさっさと行っちまえ、もう二度と戻ってくんじゃねえぞこのバカって内心ガッツポーズをしていたんだな。

 だけど、そんな浅はか極まりない、自己中心的な考えは、少し言いづらそうに発せられた彼女の一言で吹っ飛んだ。

「ゆっくり話でもしたいところだけど、ちょっと用事があるんだ」

「え?」

「だから悪いけど、今日は帰って欲しい」

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ


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