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おやじパンクス、恋をする。#216

 火曜日、夜七時。

 69の駅を挟んだ反対側にあるファミレスに俺たちはいた。

 タカとボンは仲良くいつものハンバーグセットを食い、俺と涼介はグラスビールで景気づけだ。カズは一人で山盛りのフライドポテトをもしゃもしゃ食いながら言う。

「で……雄大はいったい何しに来るんだよ、無断欠勤してすみませんでしたって、謝りに来るのか?」

「いや、来るかどうかも分からねえよ」

 俺はぶっきらぼうに答える。そう、分からねえ。けど、もし雄大がここに姿を現すとしたら、それは多分、無断欠勤を謝るためじゃない。

「もうボチボチ始まるんだろ。ほら、社員たちが出てきてる」

 ボンが言い、俺たちは自然と窓の外へと視線を投げる。

 このファミレスはビルの三階にあって、窓際の席から向かい側のビルがよく見える。

 一階部分に地下へと続く暗い階段があって、ジーマのネオンが看板として使われている。あそこが今日の会場。まあまあの広さのクラブで、涼介たちのバンドも何度かライブをやったことがある。

 ボンの言う通り、階段の周辺に黒スーツの男が数名見えた。こないだの葬式で見た顔もいる。俺たちはできるだけ目立たないように奴らを観察した。

 まあ、階下からこっちに気付く可能性は低いが、仮に見られたら面倒くせえことになるだろう。俺ら、人を覚えるのは苦手だけど、覚えられるのは得意でさ。

「倫ちゃんは来ねえつってたな」カズが言って、俺は頷いた。

「ああ、彼女は葬式以来、会社のことにはあんまり関わってねえんだとよ。雄大を探すのに忙しいしな」

「でもなんで、俺らがここに来てるってこと、倫ちゃんに秘密なんだ?」早々にハンバーグを食べ終えたボンが、タバコに火をつけながら言う。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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