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おやじパンクス、恋をする。#041

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

「どっち?」と俺は聞く。「囲われてたのか、隔離されてたのか」

「囲われてるなんて、人聞きの悪い。働き詰めの両親の代わりに、彼は私の面倒を見てくれたのよ」

「彼って、こいつ?」とタカ。

「ううん、彼のお父さんみたいな人。つまり、私の両親にお金を貸してた人」

「ああ、なんとなく分かってきたぜ」と涼介。確かに、俺にもだんだん飲み込めてきた。

 だけど、問題はそこじゃねえんじゃねえのか。

「あのさ、それで、このバカはなんであんなこと……君の男じゃねえんだろ? それなのになんで……」俺は堪らず言った。

 一度は収まった怒りが、彼女の口を吸うこいつの姿を思い出して、また戻ってきた。

「おかしいじゃねえか、なんでキミがこいつにキスされたり、殴られたりしなきゃなんねえんだよ。クソ、おいてめえ、何とか言えよ」俺はそう言ってバカの肩を小突いた。

 ブヨブヨした贅肉、こいつの親父が誰だろうが関係ねえ、こいつが彼女を殴ったことには変わりねえんだ。

「おいおい、落ち着けよ。話し合うつったのはてめえじゃねえかよ」とボンが言い、俺の隣に座ってたタカが俺の腕を引っ張る。「そうだよ、落ち着けよ」

「クソ、君も何とか言えよ」困った顔で黙っている彼女に俺は食って掛かった。だんだん惨めな気分になってきて、居た堪れなかった。

「彼女に絡んでどうすんだよバカ」と涼介。「まあ、初恋の相手に会えてテンションあがっちまうのは分かるけどよ」

 彼女が顔を上げて「初恋?」と聞き返した。「なにそれ」

「なにそれって、そのまんまだよ。コイツの初恋の相手はあんた。三十年も前のことだけどな」

 そんな事一言も言ってねえじゃねえかとさらに俺はカッとなったが、いや実際そうだったんじゃねえのって自分でも思って、なんかいよいよ悲しくなってきた。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

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