マガジンのカバー画像

徒然

14
気に入った俳句、短歌、一言を集めてぼちぼち呟きます。
運営しているクリエイター

記事一覧

【明日は君だち来ます天気善くよろしき歌のできる日であれ 子規】友達が自宅に訪れてくれるのを待ち遠しく想っている感じがよく出ている。どのようなことをして、もてなそうか。何について話そうか。家に閉じこもり詩作に耽り日を過ごす子規には、唯一世の中と繋がりを持てる大切な時間だったのだ。

關本ジンイチ
2か月前
5

【ともし火のもとに長ぶみ書き居れば鶯鳴きぬ夜や明けぬらん 子規】ランプの灯で長文の手紙を書いていたのであるが、いつの間にか朝が来て鶯も泣いていた。病を押してまで夜を徹し、誰に向けての手紙だったのだろうか。いや、重い病の身であるからこそ、伝えなければならないことが山積していたのか。

關本ジンイチ
3か月前
4

【朝がほの 今咲きぬべき花の上に おぼつかなくも 残る月かな 一葉】ふと思い立って、一葉の旧宅付近まで散歩することがある。旧宅は現在も人が住んでいらっしゃる民家でもある。故にか、以前は史跡としての案内板もあったが撤去されている。咲きかけの朝顔を照らす月光を思い浮かべて帰途に就く。

關本ジンイチ
9か月前
7

【昼顔の花に乾くや通り雨 子規】夏らしい雰囲気が伝わるような句。ほんの一時の雨が強い陽射しを受ける花に生命を与えるのか、一時の雨も止んでしまえば花弁に乾いてしまうのか、一瞬の水滴の行方を凝視する描写が見えて好きだ。花草についての句や歌は多いが、これは余り寂しさを感じさせない。

關本ジンイチ
9か月前
7

【寝ころんで酔のさめたる卯月哉 子規】20230416
4月に入り春らしくなり、酒盃を傾けて夜を過ごしたのだが、横になっているうちに冷え込んできたようだ、ということか。それとも、春になり動物が目を覚ますように、自身の感性が鋭くなったことを直感したという句か。春の夜は気候が繊細だ。

7

【落ちかかる石を抱えて藤の花 子規】20230423
天候の良い日であったので、久しぶりに自宅を出て散歩をしてみた。適当な道を選んで歩いていると、2軒ほど軒先に藤の花が垂れ下りている家があった。自身の生命をつなぎとめようとして、長く下がる藤の花に希望を委ねる春の執念か。

5

【春の夜や暗がり走る小提灯 子規】0430 22時を回る時間に電車に乗っていると、いよいよ夜が走り出すという感覚が湧き上がってくる。小さな子ども連れのお母さんが一息ついている座席の前で、首から顔にかけて刺青を彫り込んだ男が大声で笑っている。電車を降りた人々はどこへ帰るのだろうか。

【蜩や夕日の里は見えながら 子規】0502 今日はよく晴れたと思い授業を始めたのだが、その後に引継や採点等の仕事を終える頃には、町全体が墨を塗られたように暗くなっている。当時の勤め先は母親の実家に近く、子規庵にもまあまあの距離であった。点々と点る家々の灯りを懐かしく思い出す。

5

【ひらひらと風に流れて蝶一つ 子規】0502 この数年、蝶が飛んでいるところを見たことがない。出不精なので、休日は遠くまで出かけることはない。自分の身一つ、風に上手く乗って、行きたいところまで行ってみたいと思うのであるが、ひらひらと舞い上がれるほどの軽さでもない気がしている。

8

【今やかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸のうちさわぐかな 子規】0505 野球の試合を見物しているのか、それとも未だ健康が維持できていた頃に試合に加わっていたのか。満塁となったフィールドを見てわくわくしてきたという一首。俳句より短歌の方が字数が多いだけに、喜怒哀楽が伝わる。 

5

【水汲みに往き来の袖の打ち触れて散り始めたる山吹の花 子規】0507 
花瓶を持って、水を取り替えに流しまで持って行ったのであるが、その往復の間に着物の袖が瓶口にかかり、せっかくの花が散ってしまった。病床から良かれと思ってしたことなのに、望まないことが起きてしまったという無念か。

4

【もののけの出るてふ家に人住みて笑ふ声する春の夜の雨 子規】明治30年、30歳の作なので、既に病状は重くなっているはず。それでも、自分の住居をお化け屋敷にたとえて笑う無邪気さ、もしくは皮肉っぽさが見える気がする。実際に訪れて子規が自分の家をどれほど気に入って住んでいたのか分かる。

3

【うつくしき春の夕や人ちらほら 子規】春が訪れて気候が穏やかになってくると、人々の気持ちにものびやかさが生まれて活気に満ちてくる。本来の明るくゆるい兄ちゃんの資質が出ていて好きな句である。夜がきて暗くなる前の下町に、人通りが増えて夕景の寂しさが薄れる感じが良いなと思う。

7

【ゆふさりてランプともせばひと時は心静まりて何もせず居り】齋藤茂吉 日が暮れたなと思ってランプを点けたら、わずかな間ではあるが穏やかな心持ちで独りを味わえたということ。あらゆる出来事に翻弄された一日から解放された喜びか。仕事を終え電車に乗って家に帰り、部屋の電気を点けた時の平穏。