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京都エッセイ⑥大学デビュー失敗Ⅲ

 さて、失敗続きの話ばかりだが、ではそんな僕がどうしてきちんと大学を卒業できるに至ったのか。

 理由はもちろん複数ある。が、そのうちの大きなこと二つを紹介する。

 作品を褒められたこと、そして文学イベントとの出会いである。

 後者に至っては次回に書きます。

 今回は前者の褒められたお話。

 二回に渡って大学デビューを失敗したことを書いたことからわかる通り、僕は著しく自尊心が低かった。いや、かったではなく今もかもしれないが、多少マシになったのは二回ほど作品を褒められた経験からだ。

 大学に入ってもなお小説をしっかり書き上げたことのない僕は、先輩たちと話していて文学の話になるのを極端に嫌がった。誰々の作品はどこどこがいいと言われると、なぜか落ち込んでしまうのである。

 知識不足で輪に入れないことももちろんあったが、一番は自分がいる環境で自分以外の人が褒められるのが許せなかったのだと思う。プライドがめっちゃ高いのだ。我ながら一番面倒くさいタイプである。

 一度勇気を出して言ってみたことがある。

「僕のも褒めてくださいよ」

「いや君作品書いてないやん」

 勇気はあっさり打ち砕かれた。が、それは盲点だった。しまったといった表情でこちらを見る先輩に、

「書いたら読んでくれるんですね」と返した。

 帰宅後、すぐにノートに向かい合ったが、なにぶん書くネタがない。そこで僕は自分が体験している物事を書くことにした。エッセイではなく小説として書くために、自分の要素だけを抜き出して、それを名のないキャラクターにあてがった。すると自分に近くて動かしやすいが、自分ではないものができあがる。当時弁当屋の配達をしていた自分は、その愚痴を書くことにした。しかし愚痴を書き終えると書くことがない。仕方ないので、キャラクターを外に出す。つまりは配達に行かせる。

 当時童貞だった僕が想像をフルに働かせて出たのは、美人のお姉さんに部屋に上げてもらうということだった。そこでめっちゃ優しくされるのだ。

 当時の僕は癒しを求めていたのだろう。

 そこからはあ筆を止めることなく書くことができた。自分だったらこうするだろうなという通りに書いたのだ。めちゃくちゃ美人のお姉さんに甘えるようになり、ついに仕事を辞めてしまう。初めて私服で訪れた主人公に美人の女性は「あなた誰ですか?」というのである。

 そこで話は終わるはずだった。

 しかし書いてみてこの美人のお姉さんは何者なんだろう? と気になった。

 ので書いてみることにした。

 結果、僕に似たけど別物の配達屋の話が3割。残りの7割を美人のお姉さんの過去から現在までを書いた。オチはどうして彼女が配達屋を認識できなかったのかという種明かし。

 できたものをまず先輩に読んでもらった。先輩はまず書き上げたことに驚き、褒めてくれる。色々アレな部分はあるけど、しっかりと形になっていると褒められた僕はうれしくて、教授陣にメールで一斉に作品を送った。

 今考えると若気の至りで迷惑千万なのだが、そのうちの一人の先生がゼミで取り上げてくださった。そのこともうれしかったし、そこでも荒削りだけどパワーがあると褒められ、ゼミの先輩ガールに今まで読んだ作品の中で一番好きとまで言われたのが大きかった。

 単純な僕はそのゼミの先生の授業をめちゃくちゃとった。先生の主催する飲み会に行きたいと先輩に懇願し、飲み会でもなるべく先生の近くに座り話を聞いた。魅力的だったり下世話だったりと楽しかったが、内心もっと褒めろと思っていた。

 2度目に褒められた経験は、その先生の授業で自分を使って物語を書くというものがあった。僕はすでに最近のことは使ってしまっていたので、過去の大学に来るきっかけになった話を書いた。それが合評会に選ばれたのだ。(合評会とは期末にある全生徒の前に出て、作品の感想を直接いただけるもの)

 選ばれたことはもちろんうれしかったが、その会場が僕から見て盛りに盛り上がった。たくさんの人が手を上げてくれたあの景色をずっと忘れられないと思う。その場で行った一個だけ嘘を入れたというのを当てる遊びで誰にも気づかれなかったのも、その答えについて先輩や後輩からマジですか? と合評会後に聞いてもらえたのも、ものすごくうれしかった。

 そのきっかけをくれた先生が学校を離れることになった。送別会と題して開かれた飲み会でその当時のことを感謝したら

「愛してる!」

 と返ってきて涙が出た。

 その後に知ったのだが、自分史の授業はエッセイを書く練習だったらしい。

 実際にエッセイを書くようになるのは入学から5年後、卒業してから2年後の今になってしまった。

 先生、お元気でしょうか。


次回、大学デビュー失敗編最終回。

 イベントとの出会いです。

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