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「素敵な素材」(『生命式』より)

「素敵な素材」(『生命式』より)
村田沙耶香著


短編集「生命式」より、第二弾。

けっこう、文章的には、気味悪い話なのだけどね。

主な登場人物
ナナ:主人公 「私」
ナオキ:ナナの婚約者

物語を一言で言うと、カシミア100%のセーターってみんなが、憧れるセーターだと思うのだけど、まあ、最近は、ユニクロでも、出すようになったから価格破壊は、おこっているかもしれない。この「カシミア」という言葉を「人毛」に置き換えたセーターというものが、みんなに崇拝される憧れの超高級セーターだという世界の話。そこでは、結婚指輪は、前歯を加工してつくるのが、ステイタスシンボル。人間を素材にして、ファッションやインテリアをつくることが、素晴らしいとされる世界が展開している。


ナオキは、死んだ人間の骨などを加工して、身につけるというファッションを毛嫌いする。そのせいで、「私」は、前歯でつくる流行りの指輪を諦めなければならない。仕方なく、プラチナの指輪になってしまうというのだった。

実は、人毛で作られたセーターというものは、実際に存在するらしい。

オランダ出身のデザイナーで研究者でもあるゾフィア・コラーという人物が、髪の毛の成分に関する研究を重ねて、衣服として再利用する方法を編み出した。彼女は、毎日大量に切られている髪の毛を美容室などから集めて、塩酸で加水分解し、アミノ酸やペプチドに分解することで醤油に似た水溶液を得たといいます²。その水溶液を折り目加工や模様のある生地に仕上げて、セーターにして着るというもの。これは、ファッション産業の環境汚染に対する一つの解決策として提案されたものだった。人毛のセーターは、今どきのSDGs的な意義やメッセージが、込められたものなのだと思う。

本書に戻ると、バックのストーリーとしては、ナオキと亡き父との間の確執が、父親が残してくれた遺品を通して、和らいで行くという人間ドラマだったりする。

そして、さらに、もう一段、深いテーマは、私にとっての「非常識」だったことは、「みんなの常識」という世界に案外簡単に染まってしまうということなのかなあと思った。

このまま、放置していると日本は、お墓だらけの国になってしまうかもと思ってみたりすると、人骨も再利用しなければ的な世界観は登場するかもしれない。 

世の中の常識なんて、当たり前のように180度変わってしまうものだからね。

自分のベースを持つことは、大事だなあと改めて思った。

以前、SNSの投書で、人間の値段について書かれたものがあったことを思い出した。

人体の構成元素
* 酸素(O):約65%
* 炭素(C):約18%
* 水素(H):約10%
* 窒素(N):約3%
* カルシウム(Ca):約1.5%
* リン(P):約1%
* その他の元素(カリウム、硫黄、ナトリウム、クロムなど):合計で約1.5%

60kgの成人で6万円弱らしい。

人間も物質の一つなのだろうけどね。人体は、再利用されるべきなのか、考えさせられる。

まあ、物質だって、究極的には、振動数を持つエネルギー体ということになってしまうらしいので、人間として生かされている時間は、楽しい時間でいたいと思う。


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