現代版・徒然草【75】(第242段・三大欲求)

人間は生きている以上、さまざまな欲求を持つ。兼好法師は、その欲求を3つ挙げて、いずれの欲求もなるべく持たないほうがよいと言っている。

では、原文を読んでみよう。

①とこしなへに違順(いじゅん)に使はるゝ事は、ひとへに苦楽のためなり。
②楽と言ふは、好み愛する事なり。
③これを求むること、止む時なし。
④楽欲(ぎょうよく)する所、一つには名なり。
⑤名に二種あり。
⑥行跡(こうせき)と才芸との誉(ほま)れなり。
⑦二つには色欲(しきよく)、三つには味はひなり。
⑧万(よろづ)の願ひ、この三つには如かず。
⑨これ、顛倒(てんどう)の想より起りて、若干(そこばく)の煩(わずら)ひあり。
⑩求めざらんには如(しか)じ。

以上である。

①の文で、「とこしなえに」とは、「永遠に」という意味である。違順とは、逆境と順境の意味であり、人生において、逆境と順境のはざまで生きるから苦楽が伴うのだと言っている。

②③に書かれてあるとおり、「楽」とは人間が好んだり愛したりするものであり、生きている限りそれが止まることはない。

④⑤⑥の文では、「楽」のうちの一つ目である「名誉欲」を挙げて論じている。

名誉欲には2種類があり、自らの業績(仕事などで成果を出すこと)と、学問や芸能を身につけることを欲しているという。

そして、⑦では、二つ目の欲に「色欲」、三つ目の欲に「食欲」を挙げている。

⑧の文では、その他の願望は、これら三つには及ばないと言っている。

ただ、最後の⑨⑩でまとめているとおり、これらの欲は、「顛倒の想」(=真実を見誤ること、妄想)によって苦痛を伴うことがあるから求めないほうがよいと結論づけている。

名誉にすがりつく、色恋に溺れる、やけ食いをする。

たしかに度が過ぎると、ろくなことがない。

身につける知識やスキルはほどほどに、行き過ぎた情欲はかえって破滅に向かうので、人との距離はほどほどに、常に腹八分目を心がける。

これは、結局のところ、ムダにお金を使わないことにもつながるのだ。

腹八分目がなかなか難しいのだが、最後は、自分の中で自制心がどれだけあるかにかかっているのである。

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