20世紀の歴史と文学(1921年)

1921年は、まず、文学の話からしておこう。

小川未明(おがわ・みめい)が書いた『赤い蝋燭と人魚』という童話が発表されたのだが、これは、現代においても大人も子どもも考えさせられる作品である。

アマゾンでも売られているが、インターネット上の青空文庫でも読める。5分もかからない短いお話なので、読んだことがない人はぜひ読むべきである。

小川未明は男性であり、この作品を発表した当時39才だったが、戦中戦後も生き延びて1961年に79才で亡くなった。

ちなみに、小川未明の娘さんも児童文学者であり、2011年に97才で亡くなった。

人間のエゴについて考えさせられる『赤い蝋燭と人魚』は、もっと多くの人に伝えられてもよいくらいの傑作である。

もうひとつ、同じ年に魯迅の『阿Q正伝』という小説が発表された。こちらも、知る人ぞ知る名作である。魯迅は、中国の作家であるが、今の東北大学医学部に留学していた。

こちらについても、興味がある方は調べてみると良いだろう。

さて、第一次世界大戦が終わり、ヴェルサイユ条約も結ばれて、戦禍は一段落したのだが、この年に日本は、四か国条約を結んでいる。

四か国とは、日本のほかに、アメリカとイギリスとフランスを指している。

そして、これは何の条約かというと、太平洋の島しょの統治に関する取り決めであった。加えて、この条約締結をもって、約20年続いた日英同盟は破棄されたのである。

太平洋の島しょとは、今でいうパラオなどの国々がある赤道以北に点在する島々である。

今では、中国の影響力が拡大するのを懸念して、日本とオーストラリアとアメリカとインドが牽制しているが、当時は、日本の影響力拡大をアメリカが懸念して牽制したのである。

現代では、クアッドという安全保障体制であるが、当時の日本は、アメリカのハワイ島からフィリピンまでの間にある太平洋の島しょを支配下に置くことを目論んでいた。

意外と知られていないが、フィリピンはもともとスペインの植民地であり、1898年にアメリカがスペインとの争いに勝ち、それによってキューバが独立し、フィリピンやグアムがアメリカの領有地になったのである。

その数年後に、日本が、日英同盟をきっかけに日露戦争でロシアに勝利し、アジア太平洋の覇権拡大を目論むようになったので、イギリスやアメリカも次第に脅威を感じるようになったわけである。

だからこそ、アメリカは四か国条約を結ぶ代わりに、日英同盟を破棄させて、日本の勝手なマネはさせまいと、太平洋の島しょについては、「直接統治」ではなく、「委任統治」とした。

委任統治とは、国際連盟規約第22条に基づくものであり、近代世界の苛烈な条件のもとでまだ自立しえない人々が居住しているところの福祉と発達を実現する最善の方法として、「後見の任務を、資源や経験あるいは地理的位置によってその責任を引き受けるのにもっとも適し、かつそれを進んで受諾する先進国に委任し、連盟に代わる受任国としてその国に後見の任務を遂行させることである」とされていた。

国際連盟が、アメリカのウィルソン大統領が提唱した14ヶ条の平和原則がきっかけで1920年に設立されたことは、すでに説明している。



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