現代版・徒然草【23】(第96段・薬草)

今日も、3文しかない短い段を紹介しよう。

今は、薬といえば、調合された錠剤か粉末がほとんどであり、薬草を煎じることはめったにない。

虫刺されは塗り薬で対応するが、兼好法師が生きた時代はどうだったか。

では、読んでみよう。

めなもみといふ草あり。くちばみに螫(さ)されたる人、かの草を揉みて付けぬれば、即ち癒ゆとなん。見知りて置くべし。

以上である。

メナモミというのは、今でも実在する。

子どもの頃に、ひっつき虫と言っていた「オナモミ」を、友達の服に投げつけて遊んだことがある人もいるだろう。

オナモミもメナモミも、和名(=日本で呼ばれる名前)であり、「オ」や「メ」は、雄(オス)と雌(メス)の当て字である。

ちなみに、「ナモミ」は、「菜揉み」からきているそうである。

薬草を揉んで利用するのは、揉むことによって成分が滲み出てくるからである。分かりやすい例でいえば、アロエを擦り傷の手当てに使った人もいると思うが、アロエは葉を折るだけで液が出てくる。

たいていの薬草は、煎じることで成分が抽出され、昔の人は、それを痛風の治癒や解毒のために使っていた。

ところで、本文に戻ると、「くちばみ」というのは、マムシのことであり、さされたというのは「噛まれた」という意味である。

マムシの毒を抜くために、メナモミの葉を揉んで傷口に当てると、即(そく)治癒するという。

だから、「メナモミ」がどんな薬草であるか、実物を見て知っておくと良いと兼好法師は言っているのである。

登山でそういう事態に直面したとき、メナモミがそばに生えていても、それがメナモミだと知らなければ、助かる命も助からないわけだ。

さて、オナモミの話もしておこう。

私が子どもの頃には、オナモミでよく遊んだものだが、最近はオナモミを見かけることがなくなった。

なぜかというと、環境省によって絶滅危惧種に指定されているくらい、希少な存在になったからである。

今や、オナモミの特性をヒントに、衣服に使われるマジックテープが開発されている。

技術の進歩の影で、植物が絶滅の危機に瀕しているのは、なんとも複雑な気分である。

野山の遊びも、今やスマホゲーム。自然と戯れる人間は、どこへ行ってしまったのだろうか。

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