現代版・徒然草【60】(第98段・人生の格言)

Amazonで検索すると、税込990円で購入できるが、小西甚一氏が校注を手掛けた『一言芳談』(いちごんほうだん)という書籍が、ちくま学芸文庫として出版されている。

小西甚一氏は、亡くなる9年前の1998年に83才で、この校注を手掛けたのだが、実は、鎌倉時代後期に成立した『一言芳談抄』がもとになっている。

兼好法師が生きていた時代に、この要文集ができ上がったわけだが、浄土宗の念仏僧たちが短い言葉で人間の煩悩について鋭く切り込んだものである。その中の一部を、兼好法師が挙げている。

では、原文を読んでみよう。

①尊きひじりの言ひ置きける事を書き付けて、一言芳談(いちごんほうだん)とかや名づけたる草子を見侍りしに、心に合ひて覚えし事ども。
②一    しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。
③一    後世を思はん者は、糂汰瓶(じんたがめ)一つも持つまじきことなり。持経(じきょう)・本尊に至るまで、よき物を持つ、よしなき事なり。
④一    遁世者は、なきにことかけぬやうを計らひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。
⑤一    上臈(じょうろう)は下臈(げろう)に成り、智者は愚者に成り、徳人(とくにん)は貧に成り、能ある人は無能に成るべきなり。
⑥一    仏道を願ふといふは、別の事なし。暇(いとま)ある身になりて、世の事を心にかけぬを、第一の道とす。
⑦この外もありし事ども、覚えず。

以上である。

①の文で、尊い仏法僧が書き付けた『一言芳談』という書物を読んで、心を打たれ、記憶に残っているものがあると言って、②以降で挙げている。

②すべきか、しないほうがよいかと迷ったときは、たいてい、しないほうが良い(正解である)。

③の文では、「糂汰瓶」が出てくるが、これは、ぬか味噌の入った容器である。来世での往生を考える者は、ぬか味噌ひとつ持つべきではない。経本など良いものを持たなくてよい。

④出家隠遁するならば、何も無いことを不自由と思わずに過ごせるよう心がけるのが、一番良い。

⑤身分の高い人は低い人に、賢い人は愚かな人に、高徳な人は貧しい人に、有能な人は無能な人に、一度はなってみる(そうした人の立場に立って考える)べきだ。

⑥仏道に入る(=入道)ならば、特別なことは必要としない。時間をもて余しても、世間のことが気にならなくなるのが第一に大切である。

⑦これ以外にもあったが、覚えていない。

みなさんも、何か一つは、心がけるようにしましょう。



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