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【観劇記録】『メディア/イアソン』2024/3/23

好きな俳優が出るという理由だけで、詳しい内容は何も知らぬままチケットを申し込んだ。チケットを取ってからどのような舞台なのか調べると、どうやらギリシャ悲劇のストレートプレイ(歌のない舞台)とのこと。
2.5次元の舞台をきっかけにグランドミュージカルに足を踏み出した私にとって、ギリシャ悲劇もストレートプレイも触れたことのないジャンルであり、観劇当日まで「何も理解できなかったらどうしよう…」と戦々恐々としつつ、劇場に足を運んだ。


公演詳細

『メディア/イアソン』
【公演期間・劇場】
2024年3月12日~3月31日
東京|世田谷パブリックシアター
2024年4月4日~4月6日
兵庫|兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【観劇日】
2023年3月23日 18:30公演
【座席】
前方上手ブロック

あらすじ

古代ギリシャの劇作家・エウリピデスが記したギリシャ悲劇の最高傑作「メディア」。夫イアソンの裏切りによって、我が子を殺めるという王女メディアの凄惨な復讐劇は、これまでに世界各国で数多くの舞台や映画の題材に取り上げられてきました。
本作『メディア/イアソン』では、この有名な復讐劇に終始せず、その前日譚である、若き日の二人の出会いと愛情に満ちた日々を鮮やかに照射し、太陽のような存在であった二人がなぜ悲惨な結末を迎えるに至ったのかを、二人の間に産まれた三人の子供たちの視点を通して描き出していきます。

『メディア/イアソン』公式サイト 概要より

感想(ネタバレあり)

チケットを手に入れた時点では、ギリシャ悲劇って何?ストレートプレイって何?という状態だった。
もちろんメディアさんのこともイアソンさんのことも知らなかったので、どなたなのかと取り敢えず名前で検索をかけ、Wikipediaやギリシャ神話解説サイトなどから、以下のざっくりとしたあらすじを得た。

  • 王子イアソンは、王に金の羊毛を手に入れるよう命じられる。金の羊毛は遠いコルキスという国が所持しているため、コルキス目指して旅に出る。

  • コルキスに到着したイアソンは、コルキスの王女メディアと出会う。メディアはコルキスに好意を抱き、父である王に背いて、イアソンが金の羊毛を手に入れられるよう協力する。

  • 無事金の羊毛を手にしたイアソンとコルキスは結ばれるが、それぞれの故郷にいられなくなり、コリントスという国に移住する。

  • コリントスの王に気に入られたイアソンは、メディアを差し置いてコリントスの王の娘と結婚する。

  • メディアは怒り狂い、コリントスの王と娘、そしてなんと自身の子どもまでも殺し、コリントスを去る。

なるほどなるほど。もっと詳しく調べるべきかと悩みつつ、当日の楽しみも残しておきたいと思い、この程度の知識のまま劇場に向かった。

実際見てみて、まず「最低限の知識は頭に入れておいて良かった」と思った。ただ「もっと調べておけば良かった」という気持ちと「最低限の知識で挑んで良かった」という気持ちは、同じくらいである。
もっと調べていけば、ストーリーに追いつくのに必死にならず、さらに色々なことを考え感じながら見ることができただろう。しかし、最低限の知識しか入れなかったことで、登場人物たちの感情や心情が、ヒリヒリと伝わってきた。

正直、Wikipediaから仕入れた知識だけでは、なぜ最後にメディアが大切な我が子を手にかけるのかわからなかった。イアソンの再婚相手やその父親を殺すのはわかるが、自分の子どもまで何故…と。
しかし劇として目の前で見てみると、恐ろしいことにそうしてしまうメディアの気持ちがわからなくもないのだ。
国に残った子供たちが酷い目に遭うかもしれないのであればいっそ死なせてあげた方が…という親心。自分の宝物を差し出すことで、自分は救われないのに子どもたちだけが救われるという苦しみ。自分の手を離れた子供たちがイアソンのものになってしまうという怒り。そしてなにより、お互いにとっての愛し子を殺すことが、イアソンへの最大の復讐となるという事実。
これらの心情がはっきりと台詞にあるわけではないが、南沢奈央さんの演技を通して、ビリビリと伝わってくる。
この舞台のセットや衣装はとてもシンプルなもので、目に映るのは淡い光や影、衣装の生成り色がほとんどで、ともすれば絵本のような印象がある。だが、最後に登場するイアソンの衣装には、子どもたちを殺めた真っ赤な血が激しく飛び散っていた。これまでの絵本のような色彩を裏切るかのように、子殺しの惨さを際立たせていて、まさしく悲劇であると感じる結末だった。

ギリシャ悲劇という、少しハードルが高く感じる内容ではあるが、登場人物の心情や悩み、行動原理など共感できることが多く、古代ギリシアの人々も、現代に生きる我々も、考えや行動は変わらないのだなと思わされた。(逆に言うと、2000年以上経っても人間は何も変わらず、いつの時代も人は期待し裏切るのだな…そりゃ戦争も無くならないわけだ…という少しがっかりした、だけど新鮮で諦めのつく気持ちにもなれた。)
また、たった5人で数々の役や演出をすべてをこなす、カンパニーの団結力や情熱を真っ向から浴びていると、その迫力に圧倒されて2時間があっという間に感じた。
難しそうという理由で見に行くか迷っている方がいたら、大まかなあらすじが頭に入っていればきっと大丈夫なので、ぜひ見に行ってもらいたい。

私はミュージカルにしかほとんど興味がなかったのだが、この『メディア/イアソン』で、ストレートプレイの面白さを知ることができた。
2.5次元からグランドミュージカルへ。
グランドミュージカルからストレートプレイへ。
追いかけているだけで、世界を広げてくれる三浦宏規さんに感謝。

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