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2022年に読んだ本からオススメの10冊

去年(2021年の読書まとめ)に読書欲が復活してから、それなりに読書を継続している。ケニアに住んでいる間は生活の一部に読書があるし、旅をしている間も、隙間時間はそれなりに読書が埋める。

2022年に読んだ本は141冊。自分としては多いのか少ないのか微妙なライン。
毎年の恒例で、読んだ本の中から10冊ほどピックアップして簡潔に紹介したい。

今年はケニアから出発して、一度帰国して宮古島に。ラスベガスへのポーカー長期遠征を経て、メキシコを横断。そのままコスタリカに入って、結局、年末まで中南米で過ごした。一週間ほど前に日本に帰ってきたけれど、また来週からは韓国へポーカーの旅に出る。

テスカトリポカ(佐藤究)

ジャンルを問わず、今年一番衝撃を受けた活字はこの一冊が優勝。GOの三浦さんに薦めてもらい、ケニアにいた年始に、貪るように読んだ。

現在のところ(と、いうか現在だからこそ)小説という媒体形式でしか味わえないクリエイティブ表現がある、とぶちのめさられる。全ページに漂う血の匂い。資本主義の極致と神話の宿痾。

至極の小説体験であり、かつて読んだ名作の記憶も蘇った。『百年の孤独』『カラマーゾフの兄弟』のような壮大さと血の輪廻、『シャンタラム』のような猥雑さと冒険。あまりに面白いので、著者の佐藤究さんの他の小説もいまゆっくりと楽しみながら読み進めている。ニカラグアにいたときに読んだ『Ank: a mirroring ape』も卓抜した秀作で、抜群に面白い。

元来、動物園に行くとゴリラだけは飽きずにずっと引き寄せられて見てしまう。古来よりDNAに刻み込まれた猿人類の謎と記憶。人生の叡智がAI研究の深淵に辿り着いた先に見た景色とは。

進化思考(太刀川英輔)

圧倒的に重厚な読書体験。いま粗製濫造される本とは一線を画す、探究の塊のような書。気合の入った洋書を読み終えた読後感すらある。「変異」と「適応」の二軸で進化のメカニズムと本質をオリジナルな視点で読み解いていく。創作に限らず、生き方のヒントにもなる。勇気をもらえる一冊。

現代思想入門(千葉雅也)

千葉雅也さんの著作は『動きすぎてはいけない』以前からリアルタイムで追いかけ続けてきた記憶がある。まあ、シンプルにファンなのだ。で、今作のスマッシュヒット。

新書を読んで、ここまで感動したのは久しぶりかも。哲学とか思想、ひいては人文学を学ぶ意味ってなんだっけ、とずっと言語化できずにいた。けれど、帯にある「人生が変わる哲学」は誇張じゃない。物事の捉え方、言葉によって人生を切り拓く術、その思考のきっかけがこの本には詰まってる。

入門書としての造りのクオリティに感動さえ覚える。「入門書の入門書」と前提を置くのは入門書を書く人にとってお手本となる態度だし、明確に範囲や定義を自分の言葉で画定させることで読者を迷わせない。硬柔のバランスも絶妙。グイグイ読んじゃう。

上記のような感想をツイートしたら出版社から連絡をもらい、自分の感想が新聞広告に採用された(笑)。

Hit Refresh マイクロソフト再興とテクノロジーの未来(サティア・ナデラ)

全IT起業家必読の本と思った。インド人として三人目のMicrosoft社長になったサティア・ナデラの頭の中。人工知能、複合現実、量子コンピューティング。テクノロジーの進展で刻々と変わる世界地図を見据えながら、大企業の変革に挑む彼の哲学がこれでもかと言語化されている。

彼が成人になるまで生まれ育ったインドの原風景、両親からの教え、アメリカへ渡ってから駆け抜けた日々。エンジニアでありながら、哲学や文学への造詣も深く、その思索を最先端テクノロジーで激変していく社会にも位置付けながら、マイクロソフト再興の舵取りに挑む挑戦が描かれています。一緒に住んでいる起業家の河野さんにも激推しした一冊。

ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか(トニー・シェイ)

何年かに一度読み返したくなる。全起業家というか、志の置き場所に悩むすべての人に薦めたい一冊。ライフステージや取り組んでいることの違いによって、読むたびに違う発見がある。今年は二度も読み返した。一度は日本語で、もう一度は原文で。

46歳の若さで急逝したトニー・シェイの自伝であり、急成長を志向するスタートアップに向けたビジネス書であり、幸福の意味を追い続けた一冊。

なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない(東畑開人)

東畑さんの本を読むのは、自分自身がやや鬱気味で不調だった際に読んだ『野の医者は笑う: 心の治療とは何か?』以来。『野の医者』では、社会に数多散らばった“心を治療する者”たちを東畑さんが訪ね歩いて、精神世界の奥深さを探る医療人類学的な旅の本だった。

今回の新刊は読書というより、本当に臨床カウンセリングを受けたかのような衝撃。ちょっと圧倒的だった。心に補助線を引いていく、未知の体験。過去に傷つけてしまった人と、記憶のなかで、逃げずに向き合わざるを得なかった。複雑な人生を、複雑なまま生きることへの勇気をくれる。

本のライティングスタイルひとつとっても、『嫌われる勇気』の哲学者と青年との対話とは別境地の、読む人が小舟で大海を旅するスタイル。あとがきで書かれていたように、書き上げるのに相当な苦労があったことがうかがえる。

苦役列車(西村賢太)

小説全体を通じ、主人公・貫多の、ときに目を覆いたくなるほど醜悪だけど人間のありのままを描写した外面/内面が描かれる。人はどこでレールを踏み間違えるのか。生まれた瞬間か、自分に諦めたときか。運命への呪詛が溜まりきったとき、その怨念は火山のごとく噴火し、ときにクリエイティビティに着火することがある。石原慎太郎氏の短い解説も味わい深い。

サイコロジー・オブ・マネー(モーガン・ハウセル)

「10代で知りたかったお金の話を教えてくれる5冊」というnoteを書こうと思ったきっかけになった一冊。お金の動態や機制よりも、それを取り扱う、取り憑かれてしまう人間の方のマインドに本書は焦点を当てる。人間の不合理や矛盾の原因を“人生の一回性”と看破し、生きる上でのお金との向き合い方のヒントを与えてくれる。

クララとお日さま(カズオ・イシグロ)

カズオ・イシグロ作品はなぜかいつも、“懐かしい未来”を感じさせる読後感がある。平野啓一郎さんの『本心』と同じく、主題になるのが人型のAIと人間との共存。だけど、光を当てる角度が両作品で異なる。存在した人をAI化するのか、そもそも人格的なスペックを持ったAIが人間に寄り添えるのか、救済する存在として社会に存在できるのか。その辺りを今作品は描く。

東大卒、農家の右腕になる(佐川友彦)

この本は大きく二つの構成によって作り込まれた本。A面は佐川さんが鬱から回復していく物語。B面は無数の小さな改善を愚直に実行していくTips集で、すべてのスモールビジネスに通じるヒントが詰まってる。個人的には東大を出て、外資系企業で心を壊してしまってから、農家の右腕として再生するまでのプロセスに感動した。人は挫折からいつだって立ち直れる。たった一年間で人はどこまでも落ちていくし、どこまでも天高く飛翔することができる。

✳︎

ここでは紹介しきれなかったけれど、今年読んで面白かった次点の10冊リストとしては、以下。ちょっとした感想とかは全部ブクログにまとめてます。

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場(河野啓)
言語が違えば、世界も違って見えるわけ(ガイ・ドイッチャー)
世界は贈与でできている(近内悠太)
同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)
いつもの言葉を哲学する(古田徹也)
フリーエージェント社会の到来(ダニエル・ピンク)
お金のむこうに人がいる(田内学)
限りある時間の使い方(オリバー・バークマン)
息吹(テッド・チャン)
語学の天才まで1億光年(高野秀行)

最後に、過去の年末読書まとめも置いておきます。


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