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雪男でリサイクルを。

私が小学生の頃は、エスパーブーム、UFOブームを経て、いまでいうUMAブームの全盛期だった。いわゆる未確認生物である。当時は、学校の図書室にそれらの本が並んでいたのだ。
ノストラダムスの予言、ツタンカーメンの呪いと並んで、雪男やネッシーの存在について想像することは至上の楽しみであった(あるいは熱狂的なファンの夢を壊すかもしれないが、仕事で雪男捜索隊の副隊長をされていた方にお話をうかがったことがあるのだが、ヒマラヤの雪男は存在しないそうである)。
ノストラダムスの予言から逆算して、自分は世界の終末を何歳で迎えるのかと思い悩んで、生き残る方法について何度もシミュレートしたものだ。最近も、テレビか何かでネッシー捜索のニュースを知って、未確認の事象を確認したいという人間の知識欲の強さに感心した。

話は飛ぶ。最近「昭和レトロ」という言葉をよく耳にする。昭和を生きた人間からすると、レトロといわれるととても歳を取ったような気がするが、いずれにせよ今の若い人の目には、昭和は魅力的に映るようだ。
いま、レトロとして若い世代に受容されているこれらの文物は、しかし当時とはまったく違う価値観からリバイバルしているのだろう。
確かに、いま振り返ると、昭和というのはキッチュで現実味のないものが溢れていた時代ではあった(もし存在するならば、UFOが、あんな段ボールをアルミホイルでコーティングした土星みたいな円盤なわけがない!)。
ありそうもないものが、想像力だけで無理やり可視化され、未知がもたらす可能性を信じるよすがに事欠かず、ファンタジーに遊べたのだ。
SFというジャンルがあれだけ輝いていたのは、未来に対していまよりもずっと想像ーそう、予測ではなくーを縦横に巡らせる余地があったのだろう。
要は、昭和とは「いかがわしさ」があっけらかんと日常に接続されていた、そういう時代なのである。昭和には、やはりキッチュが溢れていたのだ。畢竟、ファンタジーに満ちた時代だったのである。

ふたたび話はUMAに戻る。とにかく昭和はそういう時代だから、私たち小学生は、未確認生物やノストラダムスの本を、齧りつくように来る日も来る日も読んだ。それらを飽きるほど読んでなお飽きなかったのは、「もしかしたら…」というファンタジーを信じる燃料となる想像力、イマジネーションがいくらでも自己増幅できた、ということではないだろうか。

いまはどうだろう。令和の世の中は、世界的に見ても、ファンタジー不在の世の中だと感じる。イマジネーションを介在させない時代、と言い換えることはできないだろうか。
あえて豊かなイメージをさせない、高度に匿名の時代。そういう時代には、ファンタジーの余地がない。余白がないのだ。
匿名でいられる、ということは本来は難しいことだ。安全圏にいて石を投げられるのは、手軽に情報で武装できる時代になったからに相違ない。そういう我々は「共有できる未知」を手放してしまった。

イマジネーションが働かない時代というのは厄介である。誰かの平和や小さな命ひとつひとつの尊さをイメージできない人は簡単に戦争を始める。日常の中にも、誹謗中傷が溢れ、誰かが誰かへのクレームを抱えて苛立ち、レビューはいつも「返品交換」。二度と利用しない、とカンカンである。
快楽の提供の方法も、イマジネーションより体験型、つまり即物的でなければ満足してもらえないわけだ。

同じ理由で、環境問題にもイマジネーションが働いていないようだ。食料戦争、水戦争、資源戦争といわれながら、それらがいつまでも泉のように湧いて尽きることがないと楽観する文明は、それらが有限であり、維持する努力をしなければ枯渇し、やがてこれを巡る争いを生み、ついには地球とともに人類は破滅するのだとイメージできないのである。

リサイクルは、おそらくイマジネーションの再生から始めなくてはならない。再生プラスチックは、想像力の再生に支えられてこそ、その真価が輝く。
ファンタジーが信じられないから、イマジネーションを発揮できないのだから、想像力が自由に躍動する余白より先に、見えすぎない、という「余黒(よぐろ)」が必要ではないか。
黒い水面の向こうに、ファンタジーの余地がある。ファンタジーの余地があるならば、ひとはそこにイマジネーションを掻き立てる。

昭和レトロはリバイバルである。その基本構造自体を、それをレトロとして楽しむ誰かが改変した、リサイクルの一種である。
イマジネーション欠如の世界的危機から、ファンタジーを再生させリサイクルさせる。
美しい地球環境を享受できる未来というファンタジーを信じるために、私たちはまずヒマラヤの山奥に雪男を想像する力を奪還しなくてはならない。(了)

未来を想像する人は未知なる「余黒」に飛び込んでいく

Header Illustration by cocoparisienne,Pixabay
Illustration by maraisea,Pixabay

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