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届かなかった0.03秒の真実『神の肉体 清水宏保』

ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう

2023年3月21日、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は米マイアミのローンデポ・パークで決勝が行われ、日本が前回王者・米国を3-2で下し、2009年第2回大会以来14年ぶり3度目の優勝を果たしました。胴上げ投手になり、MVPを獲得した大谷翔平選手が、円陣の声出しで発したのが冒頭の言葉です。

一瞬の喜びのために365日、努力を積み重ねるアスリートの姿勢に、思わず勇気や感動をもらっている方も多いはず。

今回は、スポーツジャーナリスト吉井妙子さんの著書『神の肉体』をご紹介。

スピードスケート選手の清水宏保さんが未知なる領域に到達するため、前人未踏のトレーニングに挑み続けた軌跡を描いています。

いくつか印象に残ったポイントをご紹介。

「今の状況って、自分を試す意味では凄く面白いと思うんですよ。精神状態が不安定な中、自分をどこまでコントロールしきれるのかな、という興味ですよね。これからオリンピックまで四十日ありますけど、どこで途切れてもおかしくないじゃないですか」

「あんな筋肉を持った選手はいませんね。ただそれは遺伝的なものではなく、筋繊維を破壊するようなトレーニングをし、新たな筋肉を再生し続けているからこそ、女性の乳房のような柔らかい筋肉を手に入れることが出来るんです。清水選手は、筋繊維レベルで自分の身体を知覚することが出来るし、意識レベルも他のアスリートとはちょっと違う領域に入っているので、あれだけの身体を造り上げることが出来たんだと思いますよ」(清水の大学時代からのトレーナー笠原守の言葉)

ただし、清水は金メダルという栄光が欲しかったのではない。世界ナンバー1というアスリートとしての実力の証左が欲しかったのだ。それも他者に対してではなく、自分に対する証明のためにである。そういう意味では五輪はそれを明確にする絶好の舞台と言えた。

0.03秒。一位と二位を分けたタイム差である。距離にすると四十三cm。多分清水は、長野以降四年間に、地球を一周するくらいの距離をリンクで練習してきたはずである。その分母での四十三cm。アスリートにとっては、ひどく残酷な数字だった。

「痛みは腰から足の甲まで広がり、朝起きたときに靴下もズボンも穿けない状態でした。一月十一、十二日のヘーレンフェインでのワールドカップの時は正直な話、もうだめだ、と諦めかけました。でも、痛みの伝達を遮断する弛緩ブロック注射を三本打ってもらい、もっと痛みが広がったスプリント選手権では五本と鎮痛剤を服用して出場しました」

「限界がどこにあるのか見極めるには、失敗してこそ突きとめられる。失敗するというのは、バランスを崩すか転倒するかなので、その感覚を身体で覚えてしまうんです。すると、何が足りないのか、どの部分をもっと強化すべきか明らかになり、その足りないものを埋めることによって次のステップに進ことができる。」

スポーツは勝ち負けがはっきりしていて、試合が定期的にあり期限も決まっています。目標を設定し、準備して行動し、終わったら振り返る。そうしたPDCAのサイクルを高速で回すことが可能です。この特性によって、アスリートは、思考回数・試行回数が共に多く、研ぎ澄まされた本質的な言葉を多く持っているように感じました。

自身の怪我に直面しつつも、日々コツコツと地道なトレーニングを積み重ねる。そして、本番で結果が出せなかったとしても、言い訳をせず、悔しさを背負いながらも昨日よりも一歩でも前に進むためにトレーニングに励む。このような考え方や姿勢は、スポーツだけでなくビジネスや日常生活にも応用可能だと感じました。何かを極めたいと思う方には、イチオシです。

今回の一冊は、毎月社内で定期的に本の紹介をすると宣言した際、社内メンバーからオススメいただいたものでした。様々なジャンルの本を読もうと思っても、結局は自分の好みに偏りがちなので、信頼できる方からの推薦はとてもイイですね。

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