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廉珍という小坊主

むかしむかしあるお寺に、廉珍という小坊主がおりました。

廉珍はもともと大層な悪ガキで、見かねた両親が少しでも真っ当な人間になるようにと廉珍を修行に出したのでした。寺に入ってからも廉珍は真面目に働かず、お勤めを怠けたり仲間たちにイタズラを仕掛けたりと随分な乱暴者でした。しかし住職は決して廉珍を叱らず、粘り強く丁寧に向き合って指導を続けました。やがて廉珍は心を入れ替え、寺で一番の働き者になりました。

しかし廉珍は、還俗して村に戻らねばならなくなりました。父親が病で倒れ、世話をしなければならなくなったからです。廉珍はお世話になった住職に最後の挨拶をしてから村に戻ろうと考えましたが、ちょうど住職は隣村にお勤めに出ているところでした。廉珍は住職のためにお粥を作って帰りを待ちました。季節は真冬。雪の中をお腹を空かせて歩いて帰ってくる住職のためには、あたたかいお粥が一番だろうと考えたのです。

住職は雪で通れなくなった山道を大きく迂回しなければならず、お寺に帰り着いたのは夜も更け、日付も変わった頃でした。住職が戻ってくると、寺の玄関には廉珍が正座をして待っているではありませんか。住職は驚きました。おかえりなさい住職、あたたかいお粥を用意して待っておりましたと廉珍は言いました。ありがとうと言ってあたたかいお粥を食べながら、住職は廉珍が寺から離れることになったという話を聞きました。住職は廉珍にねぎらいの言葉をかけました。翌朝、廉珍は寺を出て村へと戻ってゆきました。

廉珍がいなくなってからも、住職は事あるごとにあの時廉珍が用意してくれていたあたたかいお粥の話をしました。寒い日にあたたかいお粥をいただくことほど幸福なことはない。本当の慈愛の心というのはこういうことなのだ。その教えは、住職が亡くなったあともずっとお寺で語り継がれてゆくことになりました。今でも食べ物を温めることを『レンチン』と言うのは、廉珍の名前から取られているのだということです。

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