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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第4回】

葬礼演説の4文目を解説していきたいと思います。今回は「省略」という難敵が大胆に襲ってきます。

ペリクレス葬礼演説解説の第1回目はこちら
ペリクレス葬礼演説解説の第3回目はこちら

原文(Thuc. 2.35)と翻訳:4文目

ὅ τε γὰρ ξυνειδὼς καὶ εὔνους ἀκροατὴς τάχ᾽ ἄν τι ἐνδεεστέρως πρὸς ἃ βούλεταί τε καὶ ἐπίσταται νομίσειε δηλοῦσθαι, ὅ τε ἄπειρος ἔστιν ἃ καὶ πλεονάζεσθαι, διὰ φθόνον, εἴ τι ὑπὲρ τὴν αὑτοῦ φύσιν ἀκούοι. 
※底本:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.

筆者翻訳
なぜなら、その真実に精通しており、友好的な聞き手は、聞きたいと求め、且つ見知っていることよりも不十分にことが説明されているとすぐさま考えるかもしれないし、あまり真実を知らぬ者は、もし仮に自らの力量を超えたことを聞いたなら、嫉妬の故、幾らか誇張こそが為されていると考えるかもしれない。

解説:語彙

・ὅ:冠詞・男性・単数・主格、ἀκροατὴςと繋がる。
・τε:小辞、2行目のὅ τεと繋がり、連続性を表す。
・γὰρ:小辞、前文の理由を説明する。「というのも」「すなわち」
・ξυνειδὼς:基本形はσύνοιδα、動詞・分詞・完了形・能動態・男性・主格、ἀκροατὴςを修飾する。「精通している」
・καὶ:接続詞、「~と」
・εὔνους:基本形はεὔνοος(アッティカ方言だと母音融合でοος→ουςとなる)、形容詞・男性・単数・主格、ἀκροατὴςと繋がる。「親しい」「友好的な」
・ἀκροατὴς:基本形は同じ、名詞・男性・単数・主格、「聞き手」
・τάχ᾽:副詞、「すぐさま」
・ἄν:小辞、希求法と合わせて可能性を表す。ここではνομίσειεと繋がる。
・τι:基本形はτις、不定代名詞・中性・単数・対格、δηλοῦσθαιの意味上の主語。「何か」「こと」
・ἐνδεεστέρως:基本形はἐνδεῶς、副詞・比較級、「より不十分に」
・πρὸς:前置詞、比較級のἢ(than)の代用になっており、ἃと繋がる。「~よりも」
・ἃ:基本形はὅς、関係代名詞・中性・複数・対格、先行詞と節で「(節)のこと」という意味となる。
・βούλεταί:基本形はβούλομαι、動詞・現在形・中動態・3人称単数・直説法、「求めている」
・τε:小辞、καίと合わせ「~と」
・καί:接続詞、「~と」
・ἐπίσταται:基本形はἐπίσταμαι、動詞・現在形・中動態・3人称単数・直説法、「知っている」
・νομίσειε:基本形はνομίζω、動詞・アオリスト形・能動態・3人称単数・希求法、ἄν+希求法で可能性を表す。不定詞(δηλοῦσθαι)を取り「~と考えるかもしれない」
・δηλοῦσθαι:基本形はδηλόω、動詞・不定詞・現在形・受動態、「説明されていること」
・ὅ:冠詞・男性・単数・主格、ἄπειροςに繋がり名詞を形成する。
・τε:小辞、1行目のὅ τεと繋がり、連続性を表す。
・ἄπειρος:基本形は同じ、形容詞・男性・単数・主格、「見知らぬ人」
・ἔστιν:基本形はεἰμί、動詞・現在形・能動態・3人称単数・直説法、関係代名詞と繋げることで(ἔστιν ἃ)慣用句的に「幾らか」という意味になる。
・ἃ:基本形はὅς、関係代名詞・中性・複数・対格、πλεονάζεσθαιの意味上の主語、ἔστιν ἃで「幾らか」
・καὶ:副詞、強調「こそ」
・πλεονάζεσθαι:基本形はπλεονάζω、動詞・不定詞・現在形・受動態、「誇張されていること」
・διὰ:前置詞、対格(φθόνον)を取って「~の故に」
・φθόνον:基本形はφθόνος、名詞・男性・単数・対格、「嫉妬」
・εἴ:仮定の接続詞、仮定法の条件節を形成する。「もし~なら」
・τι:基本形はτις、不定代名詞・中性・単数・対格、ἀκούοιの目的語。「何か」「こと」
・ὑπὲρ:前置詞、対格を取って「~を超えて」
・τὴν:冠詞・女性・単数・対格、φύσινと繋がる。
・αὑτοῦ:基本形はἑαυτοῦ(アッティカ方言だと母音融合し、ἑαυ→αὑとなる)、再帰代名詞・男性・単数・属格、「自身の」
・φύσιν:基本形はφύσις、名詞・女性・単数・対格、「性質」(ここでは分かりやすいように「力量」とする)
・ἀκούοι:基本形はἀκούω、動詞・現在形・能動態・3人称単数・希求法、仮定法条件節(εἴ~)と希求法が組み合わさっているので、起こる可能性の低い未来を表す。聴衆のことを考慮し、「あなた方の力量は抜きんでているので、そんなことは無いとは思いますが」というニュアンスを言外に漂わせているのかもしれない。「もし仮に聞いたとしたら」

解説:構造

まず、骨組みの構造は下記になります。τε…τεで連続しているので、骨組みを2節確認することができます。

◆1節目
・主語:ὅ τε γὰρ ξυνειδὼς καὶ εὔνους ἀκροατὴς(精通しており、友好的な聞き手は)
・動詞:ἄν νομίσειε(考えるかもしれない)
・目的:τι δηλοῦσθαι(ことが説明されていると)

◆2節目
・主語:ὅ τε ἄπειρος(あまり知らぬ者は)
・動詞:ν νομίσειεが省略(考えるかもしれない)
・目的:πλεονάζεσθαι(誇張が為されていると)
 +条件節:εἴ…

このように、2節目の動詞が大胆にも省略されており、省略された単語をイメージしない限り、文法的に意味不明な文になっています。τεで2節が結合しているので、2節目の意味が通るように、1節目から単語を引っ張ってくれば、意味が通るようになります。

英語の順番のように並び替えると、下記になります。

◆1節目
主語[ὅ τε γὰρ ξυνειδὼς καὶ εὔνους ἀκροατὴς] 動詞[ἄν νομίσειε] 目的(不定詞でνομίσειεと接合)[τι δηλοῦσθαι] 副詞[τάχ᾽] 副詞句/比較(more)[ἐνδεεστέρως] (than)[πρὸς ἃ βούλεταί τε καὶ ἐπίσταται]

◆2節目
【帰結節】主語[ὅ τε ἄπειρος] 動詞(省略)[ἄν νομίσειε] 目的(不定詞でνομίσειεと接合)[ἔστιν ἃ καὶ πλεονάζεσθαι] 副詞句[διὰ φθόνον] /【条件節】[εἴ]  主語/動詞[ἀκούοι] 目的[τι] 副詞句[ὑπὲρ τὴν αὑτοῦ φύσιν]

逐語訳

なぜなら(γὰρ)、その真実に(筆者の補足)精通して(ξυνειδὼς)おり(καὶ)、友好的な(εὔνους)聞き手は(ὅ...ἀκροατὴς)、彼が聞きたいと(筆者の補足)求め(βούλεταί)、且つ(τε καὶ)見知っている(ἐπίσταται)こと(ἃ)よりも(πρὸς)不十分に(ἐνδεεστέρως)ことが(τι)説明されていると(δηλοῦσθαι)すぐさま(τάχ᾽)考える(νομίσειε)かもしれない(ἄν)し(τε...τε)、あまり真実を(筆者の補足)知らぬ者は(ὅ...ἄπειρος)、もし仮に(εἴ)自らの(αὑτοῦ)力量を(τὴν...φύσιν)超えた(ὑπὲρ)ことを(τι)聞いたなら(ἀκούοι)、嫉妬(φθόνον)の故(διὰ)、幾らか(ἔστιν ἃ)誇張こそが為されている(καὶ πλεονάζεσθαι)と考える(νομίσειε=省略)かもしれない(ἄν=省略)。

ペリクレスの葬礼演説解説の第5回目はこちら

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